「伝説の名店の日常」至福のレストラン 三つ星トロワグロ milouさんの映画レビュー(感想・評価)
伝説の名店の日常
トロワグロは半世紀にわたってミシュラン三つ星を維持した伝説の名店。いまはフランス地方都市のさらに郊外の小さな村に店をかまえ、地元の農家と協力して野菜・家畜をそだてるところから料理を作り上げています。フレデリック・ワイズマン93歳の最新作は、その料理店の人々が膨大な努力と工夫をつみあげて一枚の皿に至るまでの過程を描きます。
といっても、NHKの「ドキュメンタリー」番組のように、もっともらしい調理の秘密のようなものが明かされるわけではありません。チーフシェフ、同僚のシェフたち、接客スタッフ、経理担当者…の間で交わされる議論が延々と描かれるだけです。食材は何がいいか、付け合わせはどれにするか、このお客が来るならデザートはどうするか、火の入れ具合はどれくらいがよいか、魚を包丁で刻むときのコツはなにか、等々、等々。その点でこれは長大な(4時間!)の議論映画ですが、それがまったく飽きないのですね。
例によって、いったいどうやって撮ったのかと思うような自然な会話が店側でも、お客との間でも、交わされます。ワイズマン自身が映画祭でのQ&Aで説明したところによると、お客はほとんどが常連客で、撮影交渉はやりやすかったとのこと。またこの店では厨房が大きな一つの部屋なので、食材の加工から調理・盛りつけまでの過程を一連で追いかけやすかったのだそうです。
ワイズマンが若いころ撮った映画史に残る名作群にくらべると、事実とフィクションの関係をめぐる批評性の鋭さはいささか鈍ったかもしれません。しかし相変わらず見始めると止められなくなる、忘れがたい時間を保証してくれる不思議な作品です。
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