「作品を世に出すための表現者たちの苦悩と挑戦」TATAMI TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
作品を世に出すための表現者たちの苦悩と挑戦
イランの映画、劇場上映や配信などが決して多い方ではないこともありこれまであまり多くは観られていませんが、アスガー・ファルハディやジャファル・パナヒなど比較的近年の作品に感じるのは「様々な制約や制限による不条理や不自由さを、如何にも関係なさげな間接的な表現を使うことで、そのメタファーにアイロニーを込める仕立て方」で、政府による厳しい検閲をパスさせて世に作品を出すための工夫に「巧さ」を感じる観方が多い印象があります。
ところが最近、時より起こり更に激化しがちな反政府デモと、それを恐怖政治で抑えようと急増する死刑執行数など「表現者」にとっては決意が試される時。先日開催されたアカデミー賞で国際映画賞にノミネートされた『聖なるイチジクの種』や本作『TATAMI』など、命がけで祖国を脱出し他国に亡命してまでも「当事者として、政府に対する批判を表明する作品」が世に出始めていて、映画好きとして当然これらを見過ごすわけにはいきません。
なお、本作は2019年に起こった実話を基に創作されたフィクションであり、逃げ場のない恐怖に抗いながらも、信念を貫いて闘い続ける女性・レイラ・ホセイニ(アリエンヌ・マンディ)を主役としたサスペンススリラー。展開こそ小さいため、下手をすれば一本調子になり兼ねないストーリーを103分という観やすい上映時間に収めつつ、緊迫感溢れる(柔道の)試合シーンをたっぷりとレイラ目線で見せる演出と、それを俯瞰で想像させる補完的な役割としての実況が巧くマッチしていてとても見応えがあります。或いは、その「理由」でその「指示」を出すにはいささか段階的に早すぎでは?と感じて少々「スリルを煽りすぎ」と思いつつも、そこからのジリジリ、ネチネチな追い詰め方は本当に性質が悪く、観ているこちらも本当に胃が痛くなってきます。
と言うことで、全体的なバランスとしては「祖国イラン(政府)に対する強い反感」と架空の団体(WJA)を作ってまで「外の世界に期待する理想」に、やや現実味からの乖離を感じなくもない「漫画っぽさ」も否めませんが、少なくとも命を張った真剣さは認めざるを得ない現実で、観る価値を充分に感る一作です。