「後の先」TATAMI ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
後の先
ありがたいことに試写会にて鑑賞。
上映後ではなく上映前にトークショーが行われたのですが、本職の柔道解説者の方が来られて、実際に目の前で目の当たりにした選手の異変だったり、柔道を映画化する難しさと今作の柔道へのリスペクトだったりともっと聞いていたいと思えるくらい濃密なトークショーのおかげで今作への解像度がグッと上がってのめり込むように鑑賞することができました。
申し訳ないことにこの事件があった事すら今作のあらすじを読むまで知らずの状態で、普段スポーツは競馬かJリーグかくらいしか確認せずの人間で、どちらも人間関係のゴタゴタはあれど政治的なものが関わることがほとんどないので、そんな事があったのかと驚かされるばかりです。
イランとイスラエルが敵国関係であるが故に、柔道の試合であろうとイスラエルとの対戦を避けて棄権するように言われるレイラの葛藤が物語の軸ですが、史実は男性で監督も棄権を進めたという感じなのですが、今作では女性に役柄を変えて、監督も史実とは違うifを歩ませるという大胆な手を加えているのですが、これが映画的な面白さに繋がっていて驚きました。
日本に住んでいるのもあって、他国への差別的感情というのはそこまで感じることなく(強いて言えば一部の韓国の人々から嫌われているんだな〜くらい)生きているのもあって、なぜイランの人々がイスラエルを嫌っているのかなと思ったら、シンプルな対立関係で、同じ土俵の上に立つのが嫌という国の情勢はあれどめんどくさいな〜というのが印象的でした。
あの手この手を使ってレイラや監督のガンバリを妨害していき、観客を装って近づいて拉致したレイラの父親を見せたり、応援席からプレッシャーをかけたり、しきりに父親がどうなるか分かっているのか?と詰め寄ってくるのが不快でした。
国のお偉いさんまでもが詰め寄ってくるので、スポーツの一つ一つにそこまで絡んでいかないと気が済まないのかとほとほと呆れましたし、粘着的すぎる行動の連発が今もなおどこかで続いていると思うと末恐ろしいもんです。
そんな状況下でも試合を止めない、葛藤はしつつも試合を続けるレイラの姿はかっこよかったですし、スカーフを脱ぎ捨ててスポーツ選手としての自分を貫いていてギラギラしていました。
ガンバリも家族を拉致されているからこそレイラに棄権を進めるも、レイラがフラフラになりながらも諦めない姿に感銘を打たれ、レイラと共に国に抗う選択をしたところは痺れました。
運営側も2人を助けてくれており、実際にイランが大会出場無期限停止にしたことも描かれており、そうでもしないと政治思想を止められないのかと思いつつも、思い切った判断をしてくれた運営に感謝しかないです。
柔道の試合のシーンも臨場感たっぷりで、上からのアングル、引きのアングル、一人称視点での進行、手元足元での技の組み合いと演者がスタント無しで演じているのもあって見応え抜群でした。
日本人である自分でも技をかけるのって難しいのに、見た目難しそうな技を決めているんですから本当に凄いです。
畳の上での音なんかもこだわられており、実際の会場にいるような感覚になったのは劇場という環境もベストマッチしていたと思います。
政治は政治として独立していてほしいですし、選手同士の真剣勝負の邪魔はしないで欲しいと改めて思いました。
これからのレイラとガンバリ、そして今も選手を続けているサイード・モラエイのこれからに幸あれ。
鑑賞日 2/21
鑑賞時間 18:30〜20:58
鑑賞方法 試写会(トークショー付き)