「優しさと心地よさでユニークに包み込んだ快作」ゴンドラ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
優しさと心地よさでユニークに包み込んだ快作
ジョージアの山あいに伸びるロープウェイを舞台に、セリフ全くなしのミニマリスティックな物語が展開する可愛らしい一作だ。冒頭のシークエンスに触れただけで、このフォトジェニックな環境と人々の暮らしがナチュラルに胸中へと沁み渡っていく。そして何よりもロープウェイをゆく「上り」と「下り」のゴンドラが空中ですれ違う”一瞬”の連続によってユニークなドラマを紡ぎあげる手腕は見事。これを単調な繰り返しと見るか、尽きぬアイディアの宝庫と見るかで評価は変わるだろうが、私は後者となって終始笑顔で酔いしれた。ヘルマー監督といえば「ツバル」で知られる異才だが、私は本作を観ながら不意にフドイナザーロフ監督が遺した「コシュ・バ・コシュ」を懐かしく思い出したりもした。掛け替えない日常や瞬間をロープウェイという場に集約させるとは、なんてロマンティックなのだろう。限られた空間を巧みに活かし、優しさと心地よさで彩った快作である。
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