左手に気をつけろのレビュー・感想・評価
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謎の切れ味
左利きが媒介する疫病でパンデミックが起きて、しかし子供は観戦しないから、子供が左利き警察を組織して……って話だってことになってんのね。
でも、こども警察、ほぼ話に関係ないんだよね。そこがすごい。
序盤で、手つなぎ鬼とこども警察の「御用だ!」のシーンがあるんだけど、ここで小さい子の手をひいてる女の子がいるのね。小さい子は早く走れないから、手つなぎ鬼の集合に遅れてくるし、「御用だ!」にも付いてけないんだけど(法被も小さいのないから着れないし)、それでもいるの。なんか可笑しくて。
「この子は小さいから、今回はね、ちょっとね」で外れてもらってもいいところだと思うんだけど、入れてきた。その辺、よかったな。
話は、失踪したお姉さんを探すうちに、謎の占い師の言葉に幻惑されて、恐らく大して好きでもない男を追いかけちゃうの。でも彼女持ちだからね。
しかし、その彼女が左利きだと気付いた主人公は、こども警察に通報してしまう。
この辺、なんか、ありそうでいいね。
しかし改心した主人公は自分が左利きだと偽って、左利きの共同体にこども警察によって連れられてくのね。そこで「左利きの国は右利きを差別しない」みたいな一言が出てラスト。
ここの切れ味がなんかいいんだよね。スパッと切ってもらった感じで。
最後の切れ味を出すためだけに存在した映画だと思うと、けっこういいなと思ったよ。
楽しかった!
序盤は、子どもの“ごっこ遊び”を通して描かれたディストピアかと思った。
公園で子どもたちが騒いでいるくらいの見慣れた景色の中で、人心を操る犬笛で煽られた幼児性が異質な者を排除する。
ところがストーリーが進むにつれ、これはディストピアではないことに気づく。
占い師の言葉に惑わされて、思わず犬笛を吹いた主人公は、すんでのところで本来の自分に立ち返った。
代わりに連れて行かれた世界は、みんなが自分に正直に生き尊重し合うユートピアだった。
占い師の言った“本当の相手”とは、彼のことではなく、彼女と出会い、ユートピアに導かれた“本当の自分”だった。
ときに言葉はいかに人を欺くかが面白かった。
また、占い師は同時に言っていた。“覚悟”が必要だと。
今の時代、自由な精神で自分らしく生きていくにはたしかに“覚悟”がいる。
不寛容な空気に対する柔らかい異議申立てのようでありながら、井口監督の視力は、人間の善性と希望を見つめていた。
地球上に残されている最後の資源は想像力。どうぞ井口監督、これからも存分に見せてください。
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