「輪廻転生。主演の小松菜奈がひたすら綺麗。」わたくしどもは。 Green_helmetさんの映画レビュー(感想・評価)
輪廻転生。主演の小松菜奈がひたすら綺麗。
映画「わたくどもは。」を見ての感想です。ネタバレしまくりなので承知のうえお読みください。あるいは、映画を一度見てハテナの人への自分なりのアンサーです。
海鳴
さてこの映画の自分なりの解釈は「この映画は津村節子の小説「海鳴」の書かれなかった続編であり」、映画「わたくどもは。」の登場人物達はおおむね「海鳴」の登場人物が数百年後の現代に輪廻転生した姿だというのが私の意見です。「海鳴」を読んだことのあるかたは、たぶん納得されると思います。あとで登場人物の対応を考察します。なお、「わたくしどもは。」と「海鳴」は全く独立した作品でストーリーに重なるところはありません。
「海鳴」を読んだことのない方のために以下内容を説明しましょう。津村節子の小説「海鳴」の舞台は佐渡相川、そう映画「わたくしどもは。」の舞台です。時代は江戸。この時代佐渡の相川では高品質な金脈が発見され、最盛期、相川には5万人もの人々が移住し繁栄を謳歌しました。「史跡佐渡金山」や「きらりうむ佐渡」の展示の伝えるところです。なお、相川は新宿駅から歌舞伎町、新大久保ぐらいまでのごく狭い地域です。
はな(海鳴)
主人公は「はな」源氏名を「花衣」という美しい娘です。もともとは漁師の娘ですが父親が遭難し、困窮した母親に相川五郎左衛門町の料理屋へ売られます。小説のなかでは中学生前後から大学1年生ぐらいまでが描かれています。現在であれば少女が一番輝いてるときです。紆余曲折があって主人公は佐渡相川遊郭にいます。
絹川(海鳴)
佐渡鮎川(相川)遊郭は奉行所公認です。いまは相川には奉行所の建物が再建されていますね。遊郭は水金遊郭と呼ばれていました。いま相川に遊郭は無く水金町に碑があります。さて遊女たち遊郭へ売られて来ています。ヒロインは「はな」のほかにもう一人います。太夫の絹川です。絹川は見せしめに食事を抜かれた花衣へ紅白の饅頭を恵む優しい性格です。花衣は美しく気品のある絹川に恋心を抱いており、実際絹川と恋人の下級武士欽吾との逢瀬に激しく嫉妬しています。
梅毒(海鳴)
小説「海鳴」には部屋に閉じ込められた梅毒の遊女、小銀がでてきます。梅毒末期の小銀は全身に紅色の腫物がおびただしく吹き出し、腫物の表面がくずれ液が浸出して肉はすべてそげ落ち顔の骸骨がそのまま見えるほど凄惨な様子でした。もう一人、浜菊という遊女は首筋のぐりぐり、顔や手の紅色の爪の甲ほどの斑点状の皮疹、それが治ったように見えてまた再発する梅毒を発症します。江戸時代、梅毒は死の病で梅毒の惨(むご)たらししさ恐ろしさには戦慄します。なお、現在も梅毒は治療法はあるものの根絶はされていません。こんな症状がでたら直ちに病院へ。売買春、性行為を多人数としてはなぜいけないのか。答えは「凄惨な性病の温床になるから」です。
結核と心中(海鳴)
さて、絹川は結核にかかり喀血します。花衣は喀血を吸い出し絹川は息を吹き返します。当時結核は死の病で喀血すれば長くは生きられません。結核もまた治療法はあるものの根絶はされていません、結核で亡くなるかたもたくさんいます。死を覚悟した絹川は欽吾に心中を持ちかけます。花衣は欽吾の刀に喉を突かれ、欽吾もまた自害して果てます。本興寺の二人の遺体には蟻の大群が…
直吉(海鳴)
もうひとりの主人公は直吉です。無宿人の咎で江戸から佐渡へ送られ水替え人夫として働いています。佐渡金山の展示の人形のひとりは直吉かもしれません、結構むさいおじさんに見えましたが笑。20歳すぎの直吉は童貞を花衣で捨ています。ところが、花衣も結核を発症します。カラダを重ねたとは言えたった2度会っただけの花衣と直吉のふたりは相川の北の崖から飛び降り心中します。19歳と22歳でした。遺体のありさま描写はここに書けないほど惨(むご)たらしいものです。この小説、全く救いがありません。お分かりの通り津村節子「海鳴」は怖い小説で、冬の暗く重く吹雪が荒れすさぶ相川の人のいないホテルで一人で「海鳴」を読んではいけません。トイレにいけなくなります。そして、とてもやりきれなくなります。絹川と欽吾、花衣と直吉が幸せになる未来はないのか。モヤモヤした思いが残りました。
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さて、やっと映画「わたくしどもは。」の話になります。
ネタバレ。注意
そんな中、映画を見たのでした。上映が始まって、しばらくしてハッとしましたこれは「海鳴」の後編ではないかと。映画「わたくどもは。」の登場人物達はおおむね「海鳴」の登場人物で数百年後の現代で生と死のはざまで輪廻転生を待っている魂であるが、自分の意見です。では誰が誰に転生したのでしょう。
冒頭のシーン
「わたくしどもは。」の冒頭、ミドリとアオがお寺?から飛び降りるシーンがあります。もう分かりますね、二人は花衣と直吉の生まれ変わりです。お寺は二人が飛び降りた崖のメタファーでしょう。ところで、お寺?の名前はなに?
ミドリ
ミドリは相川拘置所の床で目覚めます。なぜミドリは拘置所で目覚めたのでしょうか?拘置所は人を閉じ込める場所です。そして水金遊郭も遊女を閉じ込めます。ミドリは花衣に間違いないでしょう。アオがミドリをずいぶん待ったと言っていました。心中から長い時を経て二人は、やっと再会したのです。あと、ミドリの小松菜奈がひたすら綺麗。大事な事なのでもう一度言います。主演の小松菜奈がひたすら綺麗。
アオ
水替人足直吉のアオは少なくとも一度転生しています。そしてその生の中でアオは罪を犯しています。おそらくムラサキを扼殺して埋めそのあと自殺しています。殺人と自殺の罪により遺体を埋めた場所に地縛霊として閉じ込められたのでしょう。そして骨はムラサキのものでしょう。猫はなんでしょう、アオ=姿の見えない猫でしょうか。猫のメタファーはなんだろう、村上春樹がなんか言ってたような。
キイ
キイは誰でしょう。キイ、ミドリ、アカ、クロがご飯を食べる部屋は構造から明らかに遊郭の一階です、そしてミドリが寝ている二階は遊郭の花衣が客を取っていた部屋です。だからキイは遊郭の中の人です。キイは遊郭の遣手婆「とく」でしょうか。映画終盤キイは天国のハシゴを登っていきます。でも因業な「とく」が天国へ行けるでしょうか。無理でしょう。「海鳴」の登場人物で天国へいけそうなのは一人しかいません。そう絹川です。美貌をうたわれた太夫が掃除のおばさんをやってるの?!単に転生の時期が早かっただけでしょう。そして、大女優大竹しのぶが演じているのです。大竹しのぶを調べると若い頃は魔性の女と呼ばれていたとあります。思い出してくださいミドリが目覚めたとき横にいたのはキイでした。
アカ、クロ
キイ、ミドリ、アカ、クロたちはなぜ、ご飯を何回も何回も食べるのか。遊女たちは生前白いご飯をお腹いっぱい食べられなかったからです。さいごのほうのアカ、クロの艶(あで)やかな着物は遊女の衣装でしょう。アカ、クロは小銀と浜菊でしょう。
能
能のシーンはなんの違和感もありませんでした。幽玄ですね。残念ながら佐渡で能は見たことがありません。
病気の男
坑道を歩く男は遊女へ梅毒を感染させた男でしょう。あるいは金鉱山で亡くなった人たちのメタファーか。
館長
館長はおそらく相川鉱山の霊です。
バスガイド
この辺よくわかりません。相川音頭を紹介したかった?
高校生
爪襟の性同一性障害と思われる学生も謎です。荒縄を自分で編む意味は何でしょうか。
そして「わたくしどもは。」の冒頭のミドリとアオがお寺から飛び降りるシーンに戻ります。多分バイクで、お寺から何回も何回も何回も同じシーンを繰り返して、ようやく現世で二人は幸せになります、カタルシスです。そう、音楽もよかった。
ロケ場所
自分は相川のホテルに泊まって海鳴を読み、金山の短いルート(30分コース)と長いルート(40分コース)の両方を回りました。長いルートでちょっとした登山をして道遊の割戸もみました。だからお寺?舞台?を除いてミドリの出てくる場所は全て知っています。偶然ですが相川拘置所にも入りました。そのあと映画「わたくしどもは。」を見ました。この映画に呼ばれたとしか思えません。
映画「わたくどもは。」の楽しみ方
自分はこの映画「わたくどもは。」を十分楽しみました。5段階評価で4をあげましょう。でも満点の5ではないのは画面のサイズが4:3かそれに近い小さいもので精細度も低いものだったからです。映像の構図はとても綺麗なのにその美しさが伝わりません。可能なら16:9かそれ以上のシネマサイズで少なくとも4K以上の画質でもう一度見たいと強く思います。
この映画を十分に楽しむには準備がいります、素で見たらなんのこっちゃでしょう。一つ目は津村節子「海鳴」を読むこと。相川に泊まって読めば最高です。二つ目は聖地巡礼です。「史跡佐渡金山」の長いコースは必須です。拘置所跡、相川天領通りの料理屋、能舞台、北の断崖、水金遊郭跡、奉行所。
あと、相川でこの映画をみれたらもっと良いと思います。
このあいだ某所で女子高校生がジャージを着てぎゃあぎゃあ騒いでいるのに遭遇しました。その時はイラッとしたのですが、いまはこう思います。君たちは良い時代、良い場所に生まれて本当によかった。そう、青春を謳歌するんだと。そして大事な事なのでもう一度言います。主演の小松菜奈がひたすら綺麗。主演の小松菜奈がひたすら綺麗。
参考、津村節子、海鳴 (講談社文庫) 講談社、Kindle 版