「これから晴れていくと思いながら、「普通」攻撃から守る盾だと思えれば良いのかも」99%、いつも曇り Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
これから晴れていくと思いながら、「普通」攻撃から守る盾だと思えれば良いのかも
2024.2.1 アップリンク京都
2024年の日本映画(110分、G)
アスペルガーの妻が周囲の「普通」攻撃に晒される様子を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は瑚海みどり
物語の舞台は関東圏のとある町
アルバイトの面接を受けては落ちている主婦の一葉(瑚海みどり)は、夫・大地(二階堂智)と結婚して月日を過ごしてきたが、ある理由によって、子どもがいない家庭だった
母の一周忌に弟・誠(曽我部洋士)一家と叔父(塾一久)を自宅に招くことになったのだが、叔父の大五郎は「一葉ちゃんはもう子どもを作らないのか?」と無神経な話題をお茶の間に落としてしまう
「ここでする話ではないだろう」と言うものの、その発言はエスカレートし、機嫌を損ねた一葉は部屋にこもってしまった
大地はサラリーマンとして中堅どころで、社内プレゼンに企画を通す年頃だったが、現在のプロジェクトでは後輩のマサアキ(根口昌明)の案が採用されてしまう
部下の樹里(長楠あゆ美)は擁護するものの、大地は落胆のまま、マサアキのサポートに回ることになっていた
一方の一葉はアルバイトの不採用通知に落ち込み、食事を作る気がなくなった二人は行きつけの飲み屋へと足を運ぶ
だが、そこの女将あずみ(KOTA)とも子どもの話になってしまい、「里親を考えてみては?」とお節介をかけてられてしまう
大地は他人がとやかくいうことではないと思うものの、その言葉を受けた一葉は彼に相談することもなく、里親支援センターに足を運んでしまう
だが、受付には留守番職員の古瀬(井上薫)しかおらず、一葉の質問の答えは見つからない
それは「アスペルガーでも里親になれるか」というもので、「里親の欠格事由」の中には含まれていなかったからである
映画は、一葉に振り回される大地が疲弊する様子を描き、かつて起こった流産に対する双方の認識のズレが露見してしまう様子を描いていく
一葉は「自分と同じ苦しみをしなくて良かった」というものの、大地は「それを込みでも楽しい家庭になる」と考えていた
その溝は絶望的なもので、その問題に対するこだわりも双方で食い違っている
それが大地を苦しめるのだが、一葉の方は別のことが起こるとそちらの方に集中してしまい、それがさらに大地を傷つけてしまうのである
物語は「普通なら」という感じに言われて「納得してくださいよ」という圧が充満している世界で、その「普通」というものが一葉には伝わっていない様子が描かれていく
ある種の暗黙知のようなものだが、それで言葉を濁して問題から目を背けているのが「普通の人」という感じに描かれている
この通じなさを放置することも「普通」というふうに捉えられていて、世間一般の常識が正解かのように振る舞う人も登場する
そんな中で、「普通だ」と気持ちを押し殺していく大地とは対称的に、一葉はそのひとつひとつに疑問を持っていくという構成になっていた
「普通」という奴が一番「普通ではない質問をする」という流れになっていて、自分の価値観を一般化して無意識のうちに攻撃しているという質の悪さというものが露見している印象を受けた
物語は、かなりヘビーな内容で、自分がアスペルガーではないし、近くにいないから当事者意識は持てない
かと言って、「普通」に転がっている情報を鵜呑みにして「一般化する」というのもよくないと思うので、踏み込んだ意見を言うのはナンセンスのようにも思えた
その時に大地と同じように愛せるかどうかを想像で語ることも難しいのだが、それ以上の魅力があるから一葉と一緒にいるのであって、それ以上のものはないように思えた
いずれにせよ、一般化される個別の案件というテーマとしては考えさせられる内容で、演技も凄いし、テーマの絞り込みも良いと思う
精神的にキツい話ではあるものの、反面教師がウヨウヨいる世界なので、何かしらの学びが得られそうに思う
個人的には、限りなく「普通」から遠い世界で生きているのだが、周囲にも「普通」がいない世界だと気が楽になる
なので、来年からは叔父さん抜きで周忌をするのも良いと思うが、それをするとさらに攻撃性が増すので、ここは啓太(月田啓太)くんの力を借りて、「おじさんのツルッツルは普通なの?」と言わせてみてはどうだろうか
ユーモアになるかどうかはわからないが、その時に無言でお天道様を見てみると、一般化させられる普通の惨さというものが身に染みてわかるのかもしれません