「恋の矢印の行方」違う惑星の変な恋人 sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
恋の矢印の行方
ちぐはぐで噛み合っていないのに、ほんの少しの善意で成立していく会話の内容が面白かった。
いつの間にか複雑な男女の四角関係が出来上がっていくシナリオの意外性に感心させられた。
世の中には色んなタイプの変人がいると思う。
周りにどう思われようが一向に気にせず我が道を貫き通す変人。
一方、自分に自信が持てず周りに気を遣い過ぎた結果、挙動がおかしくなってしまった変人。
この映画に登場する変人は後者のタイプだ。
美容師として駆け出しのむっちゃんは、何とか会話を成立させようと気を遣ってしまい逆に変な空気を作ってしまう。
ただものすごくピュアな女の子だ。
彼女は同僚のグリコから大人な雰囲気を醸し出すベンジーを紹介され一目惚れする。
グリコにはモーという元カレがいるのだが、彼はどうやら未だにグリコを忘れられず彼女につきまとっている。
このモーの挙動不審ぶりが笑ってはいけないんだけれど、何とも言えないおかしみを誘う。
そして何故か成り行きでモーはむっちゃんの恋のキューピッド役を買って出ることになる。
意外と恋のアドバイスが的確なモーのおかげなのかどうなのかは分からないが、結果的にむっちゃんはベンジーと関係を持つことになる。
が、このベンジーはかなりの罪作りな男であることが分かってくる。
一見、常識人を装っているベンジー、そしてグリコは、自分の欲求を満たすために人の心を弄んでしまうタイプの人間だ。
価値観は人それぞれなので、一概に彼らを責めることも出来ないのだが、彼らが誠意のある人間ではないことは確かだ。
ベンジーはむっちゃんとの関係を精算するつもりもなく、グリコとも関係を持っている。
しかしベンジーはグリコが本命なのだが、グリコに彼と真剣に付き合う気はないらしい。
この二人の会話のシーンが面白く、ベンジーも完全なやり手ではないことが分かる。
そして何故かグリコは別れたはずのモーへの恋心に再び火がついてしまい、モーは距離が近くなったむっちゃんに恋をしてしまう。
こうして四人の恋の矢印はどこにも交差することなく展開していく。
不毛なやり取りが続いているようで、時に恋愛の核心を突くような言葉が飛び出す。
男女の関係は本当に複雑だ。
四人がサッカーワールドカップの試合を観戦した後に、それぞれの気持ちをぶつけ合うクライマックスはとても印象的だった。
終始ニヤニヤ笑いの止まらない作品で、おそらく誰でもひとつは共感出来る部分があるのではないだろうか。
自分もホテルの朝食バイキングでパンとご飯を一緒に食べる時の幸福感と背徳感には共感出来た。