「これからの人生を、共に歩んでくれるような映画」ロボット・ドリームズ TMさんの映画レビュー(感想・評価)
これからの人生を、共に歩んでくれるような映画
悦び、哀しみ、切なさ、苦しみ、嘆き、そしてやっぱり悦びと言った感情が、心の神経が密集した部分に爪を立て、いつまでも疼きを与えてくれるような作品でした。
ロボットの、赤子のように純真な振る舞いを見ているだけで、自然とこちらも幸福感で満たされて行き…
いかなる生物、事象にも興味を持ち、好奇心を抱き、全身で愉しむ姿は、無垢で尊いものでした。
キャッチコピーの通り、一生私の心に(温かみと痛みを伴って)残る作品です。
〖以下ネタバレあり〗
ドッグは孤独でしたが、自身の孤独と向き合い、解決しようとする真の強さがあったと思います。孤独を感じても、目を背けて強がり、自分の心に嘘をつく人間は少なくありませんし、現に私もそうです。
この作品には、他者を思い遣るという高尚な愛が描かれていたと思います。
すぐ傍にいる相手を思い遣る愛と
会えなくなった相手を思い遣る愛と
もう会わないと決めた相手を思い遣る愛
このような映画ではどうしても、“もしも”を考えてしまいます。
もし、ラストのシーンで、ロボットがドッグの後を追いかけ、彼と再会を果たすことが出来ていたなら―
ドッグは長く彼を苦しめていた、別離の悲しみ、身を切るような後悔、激しい自責の念、埋まるはずのない空虚感から解放され、幸福を得ることができたと思います。
それはロボットも同じです。
ですが彼らを取り巻く環境は複雑になっていて、自身が幸福を得ることと引き換えに、別の大切な人を傷つけてしまう罪が隣り合わせに存在していて。
それは果たして幸せな結末と言えるのか…。罪悪感の上に建つ幸せは、不安定かもしれません。それならば哀しみの上に建てた方が、よっぽど良いかも。
この作品の悲劇は、愛する者との再会が叶う頃には既に、別の愛する者がいるという事です。
そしてこの作品の最大の救いは、それがお互い様だという事です。
それにより、最大の悲劇が回避されていたと思います。
普通、映画はエンドロールが終わり、劇場が明転すればそこで終了ですが、ロボットドリームズは今も私の中で続いています。
昇華されない暗い悲哀の念を抱きながらも、今の幸せを噛み締めるロボットとドッグのかけがえのない生活が、今もどこかでずっと続いているように感じられます。
なので、私が生きている限り、彼らの物語も続いていくはずです。
それこそ映画のキャッチコピー
一生あなたの心に残る、宝物のような102分
に繋がるのだと思います。
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少し疑問に感じたこと…
スマートで一見完璧に見えたダックは、何故あのような治安の悪い貧民街らしき場所に住んでいたのか。
対照的にドッグは、マンハッタンの小綺麗な街に住んでいたので、仕事はしていなさそうでしたが豊かに思えました。
経済的に豊かでも、心は豊かでない者の象徴だったのか…
結局、お金で孤独も解決できたのですが、ドッグの素直さと犬柄もあったのでしょう。
ダックは能力が高くて人気者でしたが、他者との付き合いは軽薄で表面的に思えました。
孤高なダックと、孤独なドッグの対比も面白かったです。私は友達になるなら、断然ドッグだなと思いました。