「殺人の運命共同体」ゴールド・ボーイ sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
殺人の運命共同体
まず好きか嫌いかはともかく、どう転ぶか予測のつかない展開に引き込まれる作品だった。
物語は一見好青年に見える昇が、一流企業を経営する義父母を崖から突き落とす狂気と衝撃のシーンで幕を開ける。
警察はこれを事故死として処理する。
しかし昇が二人を突き落とす場面を、中学生の朝陽、浩、夏月の三人がたまたまカメラに収めていた。
そのまま三人がその動画を警察に届け出れば事件は無事解決、になるはずだったが、何と朝陽が提案したのは動画を昇に高価格で売りつけて脅迫するというものだった。
まず、優秀で純朴そうな朝陽がこの提案をするのが衝撃だ。
彼の家庭は両親が離婚しているという複雑な状況にある。
そして朝陽はある自殺した女生徒の母親から犯人扱いをされ、嫌がらせを受けていた。
そんな彼のもとに転がり込んできたのが、小学校時代の親友浩と、彼の血の繋がらない妹の夏月だ。
しかも夏月は性的暴行を受けた義父を刺して逃げてきたのだ。
義父の生死は分からない。
朝陽の母香は朝陽の学費を稼ぐためにパートに出ており家にはしばらく戻らない。
こうして三人の奇妙な生活が始まるわけだが、三人は自分たちの問題は金で解決するのではないかと考える。
そして昇に対する脅迫が始まったのだ。
昇は完全にサイコパスな人間だ。
彼は自分に疑いを持つ妻の静も事故を装って巧妙に殺害する。
正直普通の中学生には太刀打ち出来るはずはないのだが、朝陽はそんな昇に対しても堂々と脅迫する。
そして朝陽は昇にある取引を持ちかける。
もし自分の父親と、彼の再婚相手でもある自殺した女生徒の母親を殺害すれば、カメラのデータをすべて削除し二度と関わることはないと。
最初は反対していた夏月も、朝陽への恋心から彼に全面的に協力するようになる。
この時点ではまだ昇は完全にサイコパスだが、三人にはまだ道を引き返す余地があるように思われた。
浩と夏月は事が終われば施設に入って償いをすることを朝陽に告げる。
そして朝陽のために二人は昇と共に殺害を実行する。
しかし最終的に観客は知ることになる。
この映画の中で最も良心がなく、引き返す道を持たないのは朝陽であったことを。
金子修介監督らしい、狂気に満ちてはいるがジュブナイルものとしても魅力的な作品だった。
おそらく朝陽の夏月に対する想いに偽りはなかったのだろう。
それでも彼は自己保身のために夏月を犠牲にする。
最後は完全に昇の狂気を食ってしまう朝陽のサイコパスぶりに戦慄させられる。
この映画の中で常識的であり、唯一公正な正義を振りかざすのは殺された静の親戚である県警の厳である。
彼は徐々に昇を追い詰め、朝陽の正体にも辿り着く。
朝陽が実の母親である香に向ける殺意の眼差しと、それをあっさり覆す姿にも寒気を感じた。