「彼と共に向かう先にあるものは、きっと心温かい春の日差しなのだと思います」異人たち Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
彼と共に向かう先にあるものは、きっと心温かい春の日差しなのだと思います
2024.4.25 字幕 MOVIX京都
2023年のイギリス映画(105分、R15+)
原作は山田太一の小説『異人たちとの夏』
舞台をロンドンに変えて、主人公の性的属性を変更した脚色がなされている作品
幼少期に両親を亡くした青年と同じマンションに住む孤独な青年との邂逅を描くヒューマンドラマ
監督&脚本はアンドリュー・ヘイ
原題は『All of Us Strangers』で、直訳すると「私たちは皆、見知らぬ人たち」という意味
物語の舞台はイギリスのロンドン
タワーマンションに住む脚本家のアダム(アンドリュー・スコット、幼少期:Carter John Grout)は、12歳の時に両親を交通事故で亡くしていた
今はタワーマンションの高層階にて一人暮らしをしていて、煮詰まった脚本に手を焼いていた
ある日、マンションの火災報知器が鳴り響き、外に出たアダムは、階上から自分を見る視線に気づく
その後、誤作動がわかって部屋に戻ったアダムの元に、その視線の男・ハリー(ポール・メルカル)がやってきた
ほろ酔いのハリーは日本のウィスキーを片手に「一杯飲らないか」というものの、見知らぬ人を部屋に入れるのに抵抗を感じ、その場はやんわりと断ることになった
アダムは、時折夢の中で両親との日々を夢見ていて、ある日何気なしに育った家へと向かってしまう
そこには12年前のそのままの姿の父(ジェイミー・ベル)と母(クレア・フォイ)がいて、優しく彼を包み込んでくれた
懐かしい話で心を躍らせながら童心に帰っていくアダムは、偶然再会したハリーとも交流をはじめ、ただならぬ関係へと進展していく
そして、ある時、アダムはハリーを家族の元へ連れて行こうと考えるのである
映画は、山田太一の原作小説を原案として、舞台を日本の夏からロンドンへと変えている
また、主人公の性的志向なども変わっていて、より監督の私小説的な立ち位置になっていた
主人公がある日を境に、亡くなったはずの両親と出会い、その背景で関係を持つ人物が現れるという設定を準えているものの、全く別の作品と考えても良いのではないだろうか
物語は、両親が視えるようになってからハリーとの親交が深まっていくのだが、ハリーもまた両親が視え、両親もハリーが視えているという流れを汲む
察しの良い人にはわかるハリーの顛末であるが、どの時点で事が起こったのかは示されない
一番最初の拒絶の後なのか、実はその時すでにという感じだったのかはわからない
だが、拒絶が引き金となっているとしたら、これほど心を抉る展開もないと思うので、夢見心地だった日々があったと思いたくもなる
それでも、実はアダムも「そっちの人」という可能性もあるので、あの日の火事は本当にあって、それによって取り残された二人の残留思念があの場所に残った、というふうにも見えなくはない
このあたりは、ご想像にお任せしますという作風になっているので、それぞれが思い描くものが最適解に近いのではないだろうか
いずれにせよ、前作および日本語版を観ずに鑑賞したが、却って先入観がなくてよかったかもしれない
LGBTQ+のシーンは結構激しく、ゲイとクィアの関係などが会話に出てくるので、このあたりの最低限の知識は必要だと思う
個人的には火事が本当に起こっていて、その残留思念が見せたものだと思っているが、あの日ハリーを見つけたことで、アダムが救われる物語にもなっているし、ハリー自身をも見つけるきっかけになっているのはよかったのだと思う
母は「ハリーのこともよろしくね」と言っていたが、それは「一緒に天国に導いてあげてね」という意味だと思うので、この解釈の方がしっくりくるのかな、と感じた