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ワンシチュエーションで繰り広げられる演劇的脚本を映画らしいカッティングで心地よく加速させた秀逸なコメディドラマだった。『桐島、部活やめるってよ』の桐島や『アルプススタンドのはしの方』の東播磨ナインの面々と同様に、本作における「ゆり」は最後まで登場せず、周囲の人間関係だけが映し出される。
しかし例示した作品とは異なり、本作では「ゆり」にまつわる周囲の男たちの語りがいっこうに「ゆり」のパーソナリティへと結びついていく気配がない。それどころか、「ゆり」について語れば語るほど「ゆり」の実像は遠のいていく。それと同期するように強まっていくのは男たちのホモソーシャルな友情だ。
言ってしまえば男たちは「ゆり」について語っていながら、実際にはきわめてホモソーシャル的闘争を繰り広げているに過ぎない。
中盤以降の「俺が秘密を暴露したんだからお前も暴露しろ」的なターン制暴露大会などがその好例だ。この暴露大会のゴールは実際的な反省ではなく、恥ずべき秘密を言いふらすことで互いの連帯を強めることにある。ゆえに体操着を盗んだり毎晩執拗に電話をかけたりといった犯罪行為でさえ最終的には「みんなゆりが好きだったんだな!」という男同士の友情の糧となる。
本作において最後の最後まで「ゆり」の姿が映し出されないのは当然のことであるように思う。彼女は男たちのホモソーシャル的友情が生み出した幻想に過ぎず、実際には存在しないのだから。ゆえに男たちはあれだけ恋焦がれたはずの「ゆり」に終ぞ出会うことができない。
上述の通り本作はそもそも男の愚かさに主眼を置いたコメディであり、したがって愚かさの描き方はとても緻密だ。個人的には開幕〜ワインを割るくだりが好きだった。名刺交換などが意味をなすはずもない空間で意気揚々と大企業の名刺を手渡すケンジ。存在しない名刺を探し「今切らしてて…」と言い訳する保。割ってしまったワインの隠蔽工作に励む健。「ここにワイン置かなかったっけ?」と尋ねた後で「5万もしたんだよね」とほくそ笑むヒロ。ここには四者四様の愚かさが表れているといえるだろう。
突然バーの照明が暗くなり、登場人物の声にエコーがかかる演出なんかもいかにも愚かな男といった感じで大いに笑ってしまった。ムーンウォークでその場を去るシーンやタバコの箱を拳で潰すシーンなど、他にも細やかながらも強烈に印象に残るシーンが多かった。
登場人物たちの掛け合いもリアルさを保ちつつも適度にコント風の仕上がりになっており、最後まで飽きることなく観ることができた。
…などと書き連ねたものの、本作最大の見どころはやはり伏線の巧みな操作だろう。ギリギリ脳みその端っこに残っていた記憶が消滅寸前のところで呼び起こされ、見事なカタルシスを迎えていく。リピーター続出!というSNSの好評ぶりも宜なるかな、という気持ちだった。