劇場公開日 2024年5月10日

「渾身の演奏を、最高の音響で」Ryuichi Sakamoto | Opus greensさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0渾身の演奏を、最高の音響で

2024年12月24日
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鑑賞方法:映画館

レビューが遅れましたが、今年の夏、東京•新宿の109シネマズプレミアム新宿で鑑賞しました。こちらの映画館は、最高の音響を備えた映画館を作ろうと、坂本龍一さんご自身が関わって建てられたそうです。

※半年近く経って今ごろレビューする個人的事情ですが、この2ヶ月間に2回、立て続けにすさまじい風邪をひいたたため、寝たり起きたりが続いて映画館に行くどころではなく、、、この間にレビューしていなかった作品のレビューを書いたり、未見のDVDでも見たりしようかな、と考えました。

この作品を鑑賞したきっかけは、昨年、故 坂本龍一さんに関するドキュメンタリー番組をテレビで観て、最近の坂本龍一さんの音楽活動に関心を持ったことでした。中学時代の友人がファンであったこともあり、戦場のメリークリスマスやラストエンペラーのテーマ曲くらいは知っていましたが、自分の中では長らく遠い存在でした。

作品中、坂本さんは、時には演奏の合間に休みを入れなければならない程すでにご体調が悪い状態でしたが、ピアノと一体となってモノクロの空間に向かって放つ音は深く重厚で、素晴らしかったです。まさに渾身の演奏でした。
途中、YMOの「東風」を弾かれたところがあったように記憶しているのですが、多分メロディーのせいかな、とは思うのですが、一心に弾かれる坂本さんの姿が一瞬、一生懸命にハノンの練習曲を弾いている少年のように見えて、ふとどきながらその時だけは坂本さんの病いが重いことを忘れて(また巨匠と言われるような方に対して、その表現は失礼かなとは思いますが)、少し口元が緩んでしまいました。日常生活の中で、男性の中に少年の純粋さを見てハッとすることがたまにありますが、そういう瞬間でした。

演奏•収録する場所は、坂本さんたっての希望で、NHKの509スタジオとなったそうです。最高のスタジオで収録された音を、最高の音響の映画館で聴いた訳ですが、その音は、外国の石造りの教会で聴く音のように澄んで、奥行きがありました。

観客全員が、物音一つたてずに静まり返って聴き入った映画でした(こういう鑑賞の仕方は、なかなか珍しいです。素晴らしい体験でしたが、実際には自分が何か物音をたててしまわないか、めちゃくちゃ緊張しました(^^;) )。

これからも、「この作品こそは音にこだわりたい」という映像作品がこの映画館で上映されて、坂本さんのご遺志が受け継がれてゆくとよいな、と思います。

個人的には、映画作品にこだわらず、様々なジャンルの音楽の映像作品を上映してもらえたら、すごく嬉しいですね。
ロックでもジャズでもコンサートのライブ映像とか、、、クラシックだったら、今は亡き名ピアニスト、ルービンシュタインのモノクロでのコンサート映像など、ぜひ聴いてみたいです。

今ネットで見たら、この作品は12月現在、まだこちらの映画館で上映されているようです。
そろそろ風邪も病み上げて来たので、また坂本さんの澄んだ音に触れに、もう一度見に行くのもいいな、と考え中です。

greens