劇場公開日 2024年5月10日

「タイトルなし」Ryuichi Sakamoto | Opus woodstockさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0タイトルなし

2024年4月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

楽しい

幸せ

(初鑑賞 2024.04.29 新宿先行公開)
坂本龍一 さんご本人、最後のピアノソロ演奏の記録映像。
個々の音を、そっと配置するような、丁寧な音作り。
若いころのようなイケイケな指さばきではないぶん、個々の音の深みが。

会場は、109シネマズプレミアム新宿、シアター7。
教授ご本人が監修した、究極の音響の映画館。
距離が無い? 配線も無い? 同じ室内に居る? ようにすら感じる体験でした。

この、混じり気のない音の紡ぎ。相応の音響設備だからこそ伝わってきました。

映像づくりの目線もすばらしく。
まるで、師匠や親を丁寧に観察して記録するような。
感嘆しかないです。

また何度か観にうかがって、理解を深めねばです。

---
(追記 2024.08.23)
歌舞伎町では何度か鑑賞済でしたが
他の会場でも、公開中のうちに、何か所か見てみました。
銀座、茨城那珂、高崎。
ある場所では、ほんわかと、カフェなどに居るかのような肩肘張らない印象だったり、
ある場所では、強い音/弱い音のメリハリが鮮明に聞こえたり、残響が心地よかったり、
外の生活音がちらっと漏れ入ってきて、混じっても心地よいね、とかも。
場所により彩りが異なり、聴き比べるとより味わい深い作品ですね。

---
(追記 2024.09.10)
上映終了の数日前。
今頃になって、この音楽家さんの不在が、どれほど痛く辛く空虚か、感情がじわじわ押し寄せてきました。
この音をもう浴びられない、これが別れかもと、訃報の時と同じぐらい痛切に感じた場でした。

---
(追記 2025.01.12 展示会にあわせて再上映)
ちょっと前、空監督ご本人と、同監督の別作品の舞台挨拶サイン会の場で、少し話す機会がありました。
本作について "聴くたび違う" と仰っていましたが、本当にそうで…。
CDなどで何度も聴いた後、
音の響き方の源…演者さんの手足や、ピアノの各パーツ、
とても細かいところですが、納得感が強まりました。

それにしても、最後の20曲目 "Opus"
本曲の演奏映像は、"Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022+" では見られましたが
映画 "Opus" のエピローグとして、演奏の終盤は自動演奏ピアノ、足音で終える、
この見せ方は、不在を突き付けられる、わかっていても堪えるところです。
今回が一番震えた気がする…。

自動演奏ピアノで再現できるなら、
他の各曲や、往年の名演奏も、同様に再現していただけないだろうか…
と、無いものねだり? もしたくなります。

---
(追記 2025.03.13)
再上映はありがたいながらも、各日とも朝9時台ばかりで…。
お昼上映の日があり、やっと再訪できました。

音と映像を浴びながら、なぜかふと思い出したのは、
教授のソロデビューアルバム "千のナイフ" 1978年。
御本人のライナーノーツにて
 音楽のつくり方が
 デジタル的な方法に変化していくと
 耳が変ってしまう
 決していい方にではなくて
のようなお言葉がありましたね。

こう書かれた御本人、晩年の活動から類推すると…
考えなおしたくなる事が多いです。

---

woodstock