「サン“ライズ”大通り」私がやりました かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
サン“ライズ”大通り
本作監督のフランソワ・オゾンはゲイである。故に女性一般に対しあまり好感を抱いていないのが普通だ。が、トランプ大統領就任までの映画界は、ハリウッドはもちろんEUでこさえられた作品もほとんどLGBTQ礼賛一辺倒で、私が記憶しているかぎり、フェミニズムに反旗を翻したのはこのオゾンとヨルゴス・ランティモス、そしてルカグアぐらいのものだろう。特に本作の監督であるオゾンの場合、過去作の中でバチカンの“幼児性愛”体質を攻撃した映画も撮っており、優男の風貌からは想像もできないほど強気な監督さんなのである。
私が初めてオゾン作品にふれたのは確か2003年公開の『スイミング・プール』だった。創作に行き詰まった女流作家が、編集長の別荘で夢とも現実ともつかない経験をするミステリアスな展開が魅力の傑作サスペンスである。劇場の隣席で、ランプリングのオール“熟年”ヌードをご覧あそばして「すごいわねー」と口走ったオバサンには絶体にわからないオチが、『スイミング』には隠されている。すべては編集長が仕組んだ“やらせ”だったのだが、主役のランプリングを含む女性の軽率な行動をせせら笑った、ゲイ監督ならではのエスプリが実に効いていた作品だ。
評論家の皆さんがこぞって指摘しているとおり、この法廷劇の狙いはまぎれもない#ME-TOO運動批判であろう。やってもいない殺人を自分がやったと自白して世間の注目を浴びる、売れない女優とその友達の弁護士が仕掛けた“炎上商法”を、クラシカルなコメディタッチで描くことにより、その“毒性”はかなり中和させられている。しかし、おそらくレズビアンだと思われるこの女性2人に向けるオゾンの目線は実に冷ややか。
この映画、フランスの古典演劇やビリー・ワイルダー監督『深夜の告白』にも言及されているらしいのだが、すっかり売れっ子に出世していた女優のもとに訪ねてくるユペール演じる老女優をご覧になって、皆さんはある傑作サスペンスを思い出さなかっただろうか。同じビリー・ワイルダーが監督し、デヴィッド・リンチをはじめとする名匠たちがオマージュを捧げている『サンセット大通り』である。
サイレント時代には名声をはせたが、トーキー全盛になってからはすっかり忘れられ存在になっていた元大女優の設定が、グロリア・スワンソンが演じた『サンセット』の主人公にクリソツなのだ。その現実を受け入れられず、浮気した若い脚本家を思わず撃ち殺してしまう元大女優。ユペール演じる老女優もまた、自分の存在を無視して、若いパツキン女優をレ○プしようとしていたプロデューサーをどうしても許すことができなかったのであろう。
結局は、(女性を中心とした)世間の同情を浴びて“無罪”を勝ち取った女優たちの姿が、ワインスタインをハリウッドから追放することによって注目を浴びた(売れない?)女優たちと重なった方も多かったのではないだろうか。ラスト、ゴシップカメラマンの炊くフラッシュを浴びながら狂気のサロメを演じ続けたスワンソンとは対照的だ。もはやDEIの巣窟と化して治療不可のアイビーリーグに引き続いて、ハリウッドにもトランプのメスが入るのか。それを楽しみながら心待ちにしているオゾンの姿が目に浮かぶ。