劇場公開日 2023年11月3日

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「楽しくて、したたかな作品」私がやりました 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0楽しくて、したたかな作品

2023年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1年1作の割合で、充実した作品を世に送っているフランソワ・オゾンが、1930年代の米国の演劇を出発点として脚本・監督を担当した最新作。原作は、37年と46年、既に2回映画化されている。オゾン得意の本歌取りか。
舞台は1935年のパリ。狂乱の季節は過ぎて、恐慌を経験し、戦争がすぐそこに迫っている。30年代フランス映画の影響が、そこここに見られ、「巴里祭(32年)」が屋根の登った時の眺望に、「自由を我らに(31年)」が工場の風景に活かされている。
若くて美しいが仕事のない女優マドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)が、有名な映画プロデューサー殺害の容疑で逮捕される。無職の弁護士だが、やはり仕事のない親友のポーリーヌ(レベッカ・マルデール)の助けで、彼女は正当防衛を理由に無罪を勝ち取り、街の皆の口に上るスターになる。ところがどっこい、サイレント時代の大女優オデット(イザベル・ユペール)が私こそ真犯人よと名乗り出る。何もお金目当て。一見、クライム仕立てのライト・コメディ。
オデットが登場した時、これは舞台演劇と思った。ほとんどの場面が、室内で進行し、最後も舞台で終わる。その後の登場人物の行く末は、新聞の記事で示されるだけ。
見どころはどこに。二人の若き女優、美しいナディアとセリフが心地よいレベッカ、しかし何と言っても、イザベル・ユペールを筆頭に、芸達者たちの演技が心に残る。
戦前のフランスは、日本も顔負けの家父長(男性)中心社会で、1944年になるまで、女性には参政権が与えられなかった。それどころか、ご主人の同意なしに、妻が銀行口座を開く(小切手帳を持つ)ことができるようになったのは1965年。オゾンは、この物語の設定を30年代にすることにより、さりげなくフェミニズムの根源を明らかにしている。当時、女性による連続殺人事件が起きていたが、それは女性による人権の主張だったのだ。
何と強かなオゾン。表面で、華やかなパリ、華麗な衣装に酔い、その裏では、女性たちの苦しみに思いを馳せることができる映画だ。もっと多くの人たちに。

詠み人知らず