「彼女が守った海」ブルーバック あの海を見ていた sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女が守った海
この映画に登場するブルーグローパーとは少し違うが、かつてYouTubeで観たダイバーと心を通わせ続けるコブダイの存在を真っ先に思い出した。
どちらも巨大で長寿な魚であることは同じで、そのいかつい見た目とは対照的な愛くるしさと、人と魚が交流することが出来るのだという驚きの事実に感動させられた。
しかしどちらも美味な魚であるという点も共通している。
観終わってから非常に複雑な気持ちにさせられる映画だった。
この映画は海洋学者であり環境活動家でもあるアビーの目線によって語られるのだが、彼女の生活が自分とは全く無縁の世界だと思っていたことに気づき、何とも言えない居心地の悪さを感じてしまった。
漁師が魚を獲ることによって我々はその恩恵を受けているわけだが、一方で乱獲によって環境が破壊されているという事実もある。
そして開発によって貴重な生き物の住処が奪われているという事実も。
アビーはオーストラリアの海でサンゴの生態を調査しているのだが、ほとんどのサンゴが白化してしまっている事実にショックを受ける。
そんな折、母親のドラが脳卒中で倒れてしまったと連絡が入る。
何とか一命は取り留めたものの、ドラは口がきけなくなってしまう。
彼女は母親の姿を見つめながら少女時代を回想する。
初めてのダイビング、そして初めてグローパーの「ブルーバック」と心を通わせた瞬間。
無骨だが憎めないはみだし者の漁師マッカとの出会い、そして突然の別れ。
彼の死によって故郷の海が荒らされ始めたこと。
熱心な環境活動家のドラが必死で故郷を海を守ることを訴えていたこと。
そして故郷の海を守りたいと願うドラと、世界の海を守りたいと願うアビーの間に亀裂が生じ始めたこと。
アビーの危険を顧みない行動によってブルーバックは救われたが、それ以降姿を見せなくなってしまったこと。
映画の終盤でドラの尽力によって故郷の海が環境保護区になっていたことが明らかになる。
アビーとドラは離れ離れになってしまったが、ドラはずっと故郷の海を守り続けてきたのだ。
誰かが声を上げなければ、失われてしまう自然はまだまだあるのだろう。
故郷の海にクジラが戻って来るクライマックスは感動的、そして久しぶりに故郷の海にダイビングしたアビーが目にしたものも。
海の青の美しさと対照的に、人間の行為がとても恐ろしく感じられる作品でもあった。