「美しく儚いものに乗せたメッセージ」シチリア・サマー うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
美しく儚いものに乗せたメッセージ
実在の事件をベースに、少年二人の出会いと行く末を描いた作品。
二人が向け合う憧憬や愛着、そして仲が深まっていく様子を言葉少なに描く数々のシーンが美しい。
実際の事件は約10歳差のカップルの事らしい。本作では二人をほぼ同じ年齢の、学業を終え自立し始める年頃に設定することで、心身も社会的にも子供から大人に変わる刹那の儚さや危なっかしさが強調されていた。二人が新生活をのびやかに謳歌しようとする姿が眩しかった。
二人を取り巻く環境が性的マイノリティを糾弾する理由は、宗教的な背景のみならず、家族や血縁を重視しそれらが固く連帯することで成り立つ島の「ムラ」と「群れ」の社会構造にも由来するのだろう。家業が無ければ日雇いで働き、手持ちがあるうちはカフェで屯していても許される緩い社会ではあるが、群れの秩序を乱す異端は許されない。仮に異端を許せば、群れ全体がよその群れに攻撃されてしまう。
その視点で観ればこの物語は、環境と生きづらさの間で喘ぐ全ての人の物語になり得るのではないか。
島の外で生活する選択肢がない中、二人が生き抜く術はあったのだろうか。島で集団が生活する術として培われた秩序と、個人の「自分らしさ」が共存する道はあったのか、無人のエンドロールに胸が詰まる思いがした。
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