「前進ゆえの孤独〜あの素晴らしい音楽をもう一度〜」トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
前進ゆえの孤独〜あの素晴らしい音楽をもう一度〜
久しぶりに、ぎゅーっと人が集ったシアターで鑑賞。それだけで、映画が始まる前から、じんわりと幸せな気持ちになれた。
加藤和彦さんとの最初の遭遇は、本作品では取り上げられていない、桐島かれんで再結成したサデスティック・ミカバンド。その後、「あの素晴らしい愛をもう一度」を隣のクラスが合唱コンクールで歌っていたのがうらやましく、気持ちは大きく前進。さらには映画「パッチギ!」の「イムジン河」で、加藤さんの音楽は、私のなかで決定的なものになった。
本作品は、加藤さんを知る、愛する人が次々に登場し、加藤さんのすごさ、素晴らしさを楽しそうに、生き生きと語る。それでいて、どこからか悲しみがひたひたと迫り、押し寄せてくる。鑑賞途中からなぜか息苦しさを感じ、ひとり戸惑った。あれは何だったのか、と鑑賞後もつらつら考えた。
常に新しいものに貪欲で、前進をやめなかった加藤さん。前に進むということは、別れも意味する。それは幸せな、肯定すべき別れなのだけれど、一点に留まり深めていこうとする人にとっては、少しさびしい。一方、進み続ける側もまた、さびしさを感じるだろう。それでも進む以上は、余りある良い結果を目指さなければ、と考えるのではないか。それは時に、孤独な道にもなり得る。そのうえ、進めば進むほど、その先が見えなくなる苦しさもあるだろう。当時はどう捉えていいかわからなかった彼の突然の死が、本作のおかげで、自分なりに腑に落ちた。そして、再び加藤さんの音楽に向き合いたい、と素直に思った。
エンディングは、「あの素晴らしい愛をもう一度」。これ以上のふさわしい選曲はない、と納得。随所にあふれる若さ、ひたむきさ、そして明るさのなかの悲しみ。様々な世代のミュージシャンによって、あの歌が再び大切に紡がれていくさまに、温かい気持ちになった。
本作を機に、まだまだ知り得ない加藤さんの音楽があると実感した。再会からの、新たな発見もきっとあるはず。これから、少しずつ紐解いていきたい。改めて、素晴らしい音楽をたくさん残してくれた、加藤さんに感謝。