ラスティン ワシントンの「あの日」を作った男のレビュー・感想・評価
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私にも夢がある
ワシントン大行進。
1963年、人種差別撤廃と黒人の基本的人権を求め行われたデモ。
25万人が参加という大規模なものだったにも関わらず、暴動など起きず、平和的抗議運動とも言われた。
キング牧師の「私には夢がある」の演説でも有名。
キング牧師と公民権運動を描いた作品なら『グローリー 明日への行進』があったが、あちらとは違う…?
違う。あちらは“セルマ大行進”。こちらは“ワシントン大行進”。発端やデモの中身も全然違う。てっきりあちらでキング牧師があの演説をしたと思っていた。アメリカの公民権運動についてまだまだ勉強不足…。
このデモの成功により公民権運動は最高潮に達し、キング牧師はそのカリスマに。
が、ワシントン大行進を影で支えた“立役者”がいた事はほとんど知られていない。
公民権活動家、バイヤード・ラスティン。その人だ。
キング牧師や公民権運動や演説などは少なからず知っていたが、ラスティンについては全く知らない。
恥ずかしながら…と言いたい所だが、アメリカはおろか黒人たちの間でもあまり知られていないという。
ワシントン大行進から50年を経て、死後の2013年に大統領自由勲章が授与。この時の大統領はバラク・オバマ。ちなみに本作の製作総指揮にオバマ夫妻が参加。きっとオバマにとっても非常にリスペクトし、影響を受けた人物だったのであろう。
影響力は本当だ。
ラスティンは活動家としてそう若くはない。
彼が掲げたのは、ガンジーに倣った非暴力。
当時、過激な活動や運動も多かったという。
そんな中で、非暴力を貫き…。
やがてそれは、キング牧師ら若い活動家に受け継がれていく。
アメリカの歴史を動かした…と言っても過言ではない。
なのに何故、ラスティンはほとんど知られていない…?
ラスティンは同性愛者であった。
当時、アメリカの各州では法律によって公には出来なかったのであろう。偉業を残しながらも同性愛者という理由だけで伏せられた点に於いては、『イミテーション・ゲーム』で描かれたアラン・チューリングを思い出す。
黒人で、同性愛者。
劇中でも不条理な暴力や差別に晒される。
バスで白人席に座り続け、暴力…。
同性愛者として猥褻罪に問われた過去…。
まだまだこんなもんじゃないだろう。どれほどのものだったか計り知れない。
そんな苦難に見舞われながらも、彼が目指したのは…
作品はワシントン大行進をクライマックスに、それを目指しつつ、ラスティンの人物像に迫っていく。
と、その周囲の人間模様。立ち塞がる困難…。
キング牧師の右腕として手腕を震いながらも、お払い箱。
全米黒人地位向上協会(通称“NAACP”)との確執。
若い黒人活動家、若い白人男性との出会い、関係。
ワシントン大行進に関しても。皆賛同すると思いきや、志違う者も。同じ黒人であっても、地位や保身を守りたい者。
デモも2日の予定が1日に縮小。
黒人白人双方からの圧力…。
それでも信念を貫く。
作品的にはオーソドックスな実録映画/伝記映画の枠を出ていない。
やはりある程度アメリカの公民権運動や人種差別の歴史を知っておかないと退屈に感じてしまう。
しかし、所々のラスティンのスピーチやクライマックスのキング牧師の演説は力説。
性格的には意外と陽気な面もあるラスティン。既存の楽曲が彩り、EDのレニー・クラヴィッツの曲が締め括る。
そして言うまでもなく、コールマン・ドミンゴの熱演。
ワシントン大行進直後、関係者が大統領と謁見。
最大の功労者であるラスティンも招かれるが、ラスティンはそれを断り、広場のゴミ拾いを手伝う。ラスティンの人となりを見た。
ゴミを拾う事で運も拾う。あの大谷イズムもひょっとしてここから…?
そんなラスティンの姿を瞼に焼き付ける若者たちの姿も忘れ難い。
印象的なラストシーン。
全ては、自分と同じ黒人たちの為に。
全ては、自分と同じ同性愛者たちの為に。
全ては、アメリカとそこに住む人全員の未来と自由の為に。
キング牧師の名演説。私には夢がある。
ラスティンとて同じ。私にも夢がある。
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