「今年のオスカーレースを牽引するキーパーソンがあちこちに」ラスティン ワシントンの「あの日」を作った男 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
今年のオスカーレースを牽引するキーパーソンがあちこちに
1963年8月28日、多くの黒人を含む約25万人の人々が、雇用と自由を求めて首都に集結した"ワシントン大行進"を組織したのが本作の主人公、バイヤード・ラスティンだ。マーティン・ルーサー・キング牧師が『私には夢がある』と演説したことでも知られる歴史的な事実の映画化だが、ラスティンのことは意外に知られていない。少なくとも筆者はそうだった。
実はラスティンはキング牧師に非武装を説いた人物だったが、社会主義者で同性愛者でもあったことから、白人社会だけでなく同胞たちからも差別された。これは、歴史の表側には出てこない活動家の苦闘を掘り起こした作品。記録を読むと、ラスティンはカリフォルニアに旅行した際、強制収容所に収監されていた12万人以上の日系アメリカ人の財産保護にも尽力している。種類に関わらず、アメリカ社会の理不尽に敢然と立ち向かった人なのだ。
そんなラスティンをコールマン・ドミンゴが実に軽やかにしなやかに演じて、残酷にも思える活動家の人生へと我々を誘う。しかし観終わると、ドミンゴが劇中で終始踊っていたかのような印象が残るのは、フィーチャーされるジャジーなサウンドが効果的だからだろうか。
オスカーレースを念頭に観たのだが、偶然か否か、ドミンゴと同じ主演男優賞候補の1人、ジェフリー・ラッシュが政治家のアダム・クレイトン・パウエル・ジュニアを、出番は少ないが『The Holdovers』で助演女優賞が本命視されるダヴァイン・ジョイ・ランドルフがある役で登場する。これは、ハリウッドの新しいトレンドを意味するのかもしれない。
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