「厳しい評価にせざるをえない一作」PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて Sugarさんの映画レビュー(感想・評価)
厳しい評価にせざるをえない一作
30後半の男性がレビューします。
eスポーツに打ち込むタツロウ、ショウタ、ワタルという3人の男子学生の姿を描いた作品でしたが、全体的に足りていないという印象でした。
主題になっているeスポーツというやや新しいテーマと、青春というテーマ、この2つの相性、食い合わせはとても良いように思いますが、その後散りばめられた細かなピースがうまくマッチせず、視聴後に消化不良感が残ります。
タツロウはバスケでの過去の精神的な古傷を払拭しようと新しい戦いに挑戦、eスポーツ大会への団体出場を決意し、メンバー集めや大人への働きかけを行った結果、無事その両方が功を奏します。
物語のきっかけでも過程でもリーダーシップを発揮する彼。
ですが、最終的には右手の古傷のせいで実力を発揮しきれない、という過去という忌まわしい
未来に向けて生きるため、負け犬の父親の姿を断ち切るために生きようとした彼の志は、結果として自身の過去に足を引っ張られ潰されてしまいます。
勝つとか負けるとかどうでもいい、というフレーズに惹かれて参加したショウタ、
彼の家庭内も極めて不安定で、両親は争いが絶えず口論や暴力を繰り返しています。
ただ、そんな中でも弟との素朴な交流や彼女未満の女の子とのふれあいが(作品を通しての)癒やし、心の清涼剤となっています。
ひたむきな姿勢でeスポーツに取り組む姿はおそらく誰もが応援したくなるいかにもな「学生さん」です。
ただ、中盤での家庭崩壊や最終盤での失恋など、彼の心の支えになっていた要素が大会決勝戦敗退までに全て跡形もなく消え去ります。
これがツラい……彼は自分一人では解決できない悲しい課題だけが残った現実に立ち向かうことを余儀なくされてしまいます。
何事にも主体的に取り組めないワタル、彼は作中での好意的な描写が少なくて、終始(コイツ邪魔だな……要らんわ)という印象しか持てませんでした。
せめて県予選最終戦で見せた「大丈夫!」というあの男気ある姿勢、精神をラストまで引っ張ってくれていれば「この大会に参加して彼は精神的に大きく成長した、よくやった!」という評価を下せたのですが………その後前向きな発言や姿勢が作品中でもまったくなかったように思います。
「彼は多分今後も何も意欲を持って取り組めず、社会の中で落ちこぼれて、不満を垂らしながら生きていくだろう。
故郷へ帰ったとき、この大会に費やした時間分学業に追われる事になって(やはり参加するべきじゃなかった)というマイナス体験を持ってしまいかねない。
自分の姿勢を考え直してショウタやタツロウのような存在と前向きに交際していく、ということもなさそう」
という悲しい印象を持ちました。
(自分が彼のような人間なのでヒシヒシと感じています)
3人が最後肩を並べて観戦をする、それは間違いなく最後の一戦を共に戦った彼らならではの美しさなのでしょうが、最終戦でも仲違いや口論を繰り広げていた彼らに、そこまで心のつながりがあったとは感じられませんでした。
実話ベースな都合上フィクションとして美化しにくい背景があるでしょうし、高校生という未熟な人生が作り上げた未完成さを作品の未完成さに置き換えることもできなくはないのでしょうが、それで作品の評価を上げるのはあまりにも甘いかな、とも感じています。
三者三様の課題がeスポーツ大会を通じて解決するわけでもなくむしろ混迷してしまう。
チーム戦だからこそ得られた体験があるわけでもない。
青春ものの「でも良いじゃないか!みたいな」カタルシスもない……むしろピュアな感情は傷つき失われてしまう……
なにかの皮を被った現実的で後味の悪い一作だと感じました。