52ヘルツのクジラたちのレビュー・感想・評価
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泣くな。受けとめろ。
重い、しんどい映画である。昔からあることだか、映画の感想を語るとき、泣いた、号泣したで片付けてしまう人がいる。エモーショナルになることはもちろん悪くはない。でもそれだけでは済まない作品もあってこの作品もその一つである。泣きたい、感動したい、という気持ちを歯を食いしばって我慢して映画からのメッセージを真剣に受け止め、理解し、自分の血肉としたいと心から思った。
さてこの映画からのメッセージだが、簡単にまとめてしまうと、聴こえにくい声を聴け、愛されるためにはまず愛せ、ということなのだろう。ただよく理解するためには原作は読んでおいた方が良い。
さすが「八日目の蝉」を撮った成島出監督で実に手際良く原作世界を表現している。ただ元々が一筋縄ではいかない深みを持った小説なだけに映画だけ観たのではわかりにくい部分はあると思う。
というか、この作品の場合は、原作と映画は補完関係にあるといっても良い。
軸になるのは母親の子への虐待である。貴瑚が母親から受ける仕打ち、52が母親から受ける仕打ちが連鎖して(この二組は全く縁故はないにもかかわらず)子供たちを苦しめる。原作では貴瑚の異父弟と52の祖父が虐待に大きく関与しているがこの者たちは映画には登場しない。もちろん母親たちには同情すべき点は一片もない。ただ虐待の本質を捉えるためには背景を知っておくべきで原作は読んでおいた方が良い。
一方で、アンさんの事情、心情についてはむしろ映画の方が詳しい。原作ではキナコへの思いをあえて書ききっていないようなのだが、映画はここをくっきり丁寧に描き出している。
繰り返すが、この作品については、原作を読んだ上で映画を観た方が良い。その方がこの世界から何を受け止めなければいけないかよく分かる。
最後に、この映画が、原作に匹敵するだけのメッセージ性の高さを獲得できたのは、ひとえに杉咲花と志尊淳を中心とした若手俳優の演技にあると思う。彼らの役作りに向けた真摯な姿勢は痛いほど伝わってきてとても嬉しかった。
今年一番心に響いた映画!孤独なクジラたちの魂の叫び声!
泣ける映画?
原作を読んだ時は「重すぎて読むのが辛かった」という感想だった。
児童虐待、DV、性別違和に苦しむ人達の物語。
映画になると聞いても『観た後に辛い気持ちが残りそう』と思い、観るつもりはなかったのだが、TVCMなどで『泣けた』 『号泣した』という宣伝をしていた。
『どうやって、あの原作を泣けるように仕上げたのだろう?』という興味が湧いて観に行ってみた。
ほぼ、原作に忠実なストーリー。
母親に『虫』と呼ばれ、児童虐待により喋れなくなったアザだらけの愛。
彼氏に殴られるとわかっていても同棲している部屋に帰ることしか出来ないキナコ。
性別違和に苦しみ自殺する杏。
ひたすら重い…
ラストで愛がちょっとだけ救われるが、実際問題、愛とキナコが一緒に住み続けることは不可能に近く、愛の施設入りは避けられないし、万が一、気の変わった母親が愛を取り戻しに来たらキナコたちには何も出来ない。
結局、誰も救われていないんだよね。
この内容で『泣ける映画』と宣伝するのはいくらなんでもあり得ないと思う。
映画自体は丁寧に作られていて、2時間超えでも中弛みはなく、役者たちも頑張っている。
倍賞美津子はさすが大女優の存在感。
ただ、重い話が大丈夫な人なら良いが、宣伝を見ただけで『あの花が咲く丘』みたいな泣ける映画を期待して観に行くと後悔することになるかもしれない。
【"二つの魂の番い。”今作は児童虐待やトランスジェンダーの悩みと言う重いテーマを絡めながら、その中で孤独な心を持ちながら必死に生きようとする人達や、彼らを支える人を描いた作品である。】
ー 序盤から中盤にかけては、観ていて可なりキツイ作品である。-
■キコ(杉咲花)は、母(真飛聖)から義理の祖父の介護を命じられ、毎朝4時に起きて3年間も面倒を見ている。だが、祖父は誤嚥性肺炎を起こし、キコは、母親から酷く殴られ、”アンタが代わりに死ねば良かったのよ!”と罵声を浴び、フラフラと歩く中、安吾(志尊淳)に助けられる。脇には高校時代からの親友ミハル(小野花梨)もいる。
二人は、キコから事情を聴き、余りの過酷な状況に絶句する。
そして、ある日安吾から”52ヘルツのクジラ”の鳴き声が録音されたテープをプレゼントされる。
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何とか立ち直ったキコが働く会社で、キコはある切っ掛けでその会社のボンボン専務、チカラ(宮沢氷魚)と恋仲になり、一緒に高級マンションで住み始めるが、安吾はキコに”あの男といては駄目だ。アイツは君を不幸にする。”と説得するが、キコは且つて自分が愛していた安吾にその思いを伝えていたのに、”君の幸せを祈っている。”と言われた事で関係を続けるが、チカラは安吾が言っていたように、DV男の本性を表す。
そして、自ら命を絶った安吾がチカラに読ませるために残した遺書を読みもしないで、コンロで燃やす姿を見た時に、キコは包丁で自らの腹部を刺す。
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キコは、一人で海辺の近くの家に住み始める。
そんな中、雨の中、腹部の傷のために倒れ込んでいたキコに傘を差し出してくれた少年。彼は身体中に、且つての自分の様に痣がある。そして、彼の母親コトミ(西野七瀬)は、彼の事を”ムシ”と呼び、男と街を去る。
◆感想
・今作で”52ヘルツのクジラ”であるのは、キコと安吾と“ムシ”と母に呼ばれた”愛”である事は観れば分かる。
そして、”キコと安吾”、”キコと愛”こそが”魂の番い”で結ばれた人たちなのである。
・安吾が実はトランスジェンダーであると分かるホルモン剤を打つシーンが、前半一瞬映されるが、あのシーンから安吾がキコを深く思いながら、キコの想いに対し、”君の幸せを・・。”と言うシーンは、彼の辛さを語っている。
・キコの高校時代の友人ミハルの存在は、観ていて心が潤う。彼女は突如消えたキコを職を辞してまでして、探しに来るのである。
・キコとミハルが少年の”家族”を探しに、長崎に行った時に明らかになった少年の名前”愛”。彼を愛していた祖母が既に亡くなっていたが、はす向かいの家のオバサン(池谷のぶえ)の家で分かった事実。そして、渡された笑顔で祖母と観覧車の前で映された写真。
<家に戻り、キコとミハルと愛が川の字で寝ていた時に、キコは愛が居ない事に気付き、写真に書かれた”サヨナラ”の言葉を見て、心当たりのある少年がキコに傘を差し出してくれた桟橋に駆けて行く。
少年は、海に飛び込もうとしていたのだろうか。ぼんやりと早暁の中に立つ少年に向かいキコは”死んでは駄目!”と言って少年を抱きしめる。
そして、二人の未来の幸せを願うかのように、離れクジラが海の名から現れ、大ジャンプをするのである。
今作は、児童虐待やトランスジェンダーの悩みと言う思いテーマを絡めながら、その中で孤独な心を持ちながら必死に生きようとする人達や、彼らを支える人を描いた作品なのである。>
またひとり好きな俳優ができた
聴こえない癒しと幸せの声。
東京から大分の海が見える高台に越した三島貴瑚の現在と過去の話。
雨の中、古傷が痛み道で倒れる貴瑚、そこへ傘をさしてくれた言葉を話さない髪の長い少年…濡れた為、自宅にてシャワーを浴び様とその少年の着ていた服を脱がすと虐待の傷跡が、自分の子供の頃とリンクした貴瑚はその少年を放っておけなくなる…。
原作未読
序盤の脱衣場で少年の身体の傷跡から涙が出てしまって。作品とはいえ子供が親の事情でこんな思いをするのは悲しい、子供の頃の貴瑚も親から虐待、懸命に義父の介護と…、疲れきった彼女の心の声に気づき手を差しのべてくれた安吾と学生時代のともだち美晴との出会いと再会。
「52ヘルツ…」という文字から自分の名を52とした少年、52の世話になった場所を訪れて愛と書いて「いとし」という本名が分かる。
過酷な現在と過去の描写が流れるなか時折流れる安吾と美晴と過ごす癒しの雰囲気と優しい時間、何で安吾は露骨に分かるアゴ髭?何て思ってたけど彼、いや彼女の苦悩と気持ちが分かった時には涙。
自分から安吾にキナコと呼んでと言っておいて安吾に「私は貴瑚」と訂正したのは悲しかった。
察して出ていった愛の「キ・ナ・コ」と呼ぶ声と、髪を切ってもらってる時の愛の笑顔には泣けた。ちょっと悲しい話ではあったけど悲しさの中に優しさもありで楽しめました。
さすがの内容・演者で見入りました
濃密な内容と見事な演者のパフォーマンスでかなり見入りました。映像や音楽もかなりよかったので、映画として作品の質はかなりのものだと思いました。悪くいえば暗くて地味な印象を受けてしまいますが、極力抑えたようなその映像と音響音楽は作品の内容と非常に馴染んでいて、なかなか感動的です。かといって、泣くだけではなかったようなもしかしたら泣けないような色々と深みがある物語でした。ヒール的な役柄を演じた人たちはあまりメリットがないような気がしちゃいましたが、それらが作品をもり立てていたと思えば、まぁ・・・
なかなか意義深い内容ですけれど、悲惨な現実ばかりが強調されている印象で、正直もうこんな世の中嫌だー!なんて思ってしまいます。このドラマで泣いて明日から自分の人生をしっかり生きていこうと思ったり、この事柄は決して絵空事ではないのだからしっかり受け止めあらゆる現実に目を向けていこうと思ったり・・・分かりやすくてよく理解できる作品で、質も高く見応え十分、それ故に難しさも感じます。
染まる
原作読了も、数年前なので細部は記憶が怪しいけど、成島監督が内容を丁寧に描いていて好感。海をたゆたう感覚のテンポを崩さず、過酷なシーンも含めてすんなりと話が入ってくる。社会問題を取り扱いながら、声高に社会派ぶることもなく、ドラマとしてしつかり昇華させていて、感情の揺さ振り方についても後味が良い。
それはさりとて、杉咲花が秀逸。この方、どんな作品にもさらりと溶け込むところが怖い。作品に色を付けるというより、作品に染まる方面の役者さんだと思うが、ここまでいろんな役柄にはまるのだから、多くの監督は自分の作品で撮ってみたいと思うだろう。華奢であどけない顔立ちで、アイドル方面でもいけそうな明るい雰囲気だが、「市子」の恐ろしい難役や綾野剛と共演の「楽園」など、割と過酷な境遇の不幸な役が多い印象なのは、S系の監督達が、愛くるしい顔から恐怖や絶望の表情を引き出したくなるからなのかも。
主人公の人生を助けるミステリアスな岡田安吾役の志尊淳、とにかく友達思いの親友、三春役の小野花梨も、下手すると変に悪目立ちしそうな、キャラクターや立ち位置が難しい役どころかと思うが、うまくハマっていた。それほど出番は無いものの、ベテラン俳優陣も映画を引き締める。倍賞美津子、余貴美子は、それぞれ重要なターニングポイントで途中登場となるが、綺麗に物語の転調を支えていた。こうした演者や演出、物語など、良いチームワークで出来上がった秀作だと思った。
原作読んで無くとも、充分楽しめると思うので、おすすめできる作品です。
2時間半には収まらない
俳優陣の演技が素晴らしかった。
杉咲花ちゃん目当てに行ったけど、専務、宮沢氷魚君のモラハラの見え隠れする「アーン」のシーンとか絶妙に気持ち悪かった。志尊淳君の諦めた瞬間の光を失った目の演技。もちろん花ちゃんの絶望とか自分を取り戻していく感じも素晴らしい表情だった。先述のアーンや杏吾の似合わない髭も良い演出だと思う。
気になったのは2点。
CM見てる時から思ってたけど、テーマの割りに主題歌明るすぎないかな?終わり方見たら希望を持って終わるからあれで良いのか。微妙にしっくりきてない。
あと詰め込みすぎ。誰にも聞こえない心の叫びがテーマだし、気付くのは同じような痛みを抱えているから。だから、それぞれに背景がある。ありすぎて表面をサラッとと言うか、駆け足で通りすぎた感じが勿体ない。
きなこの母とぶつかりながらも完全に決別までで映画1本。
立ち直って恋心を感じる余裕も出来たのに失恋でクズ男につかまってから決別までで1本。
再出発して自分と似た境遇の子を救うで1本。
一つ一つ丁寧に3本の映画、もしくは1クールのドラマとしてじっくり見たいくらいぎゅーっと詰め込まれた映画。
うまくまとめたなぁ
現代社会の問題 家庭内暴力 家族介護 育児放棄 ジェンダーレス をこれだけ扱えばかなり暗いしんどい内容になると思うのですが、しんどいのはしんどいが希望の持てる所へ最終的に持っていくのは凄いですね。
確かに自殺等苦しい場面はありましたが、
とてもよかったです😄
永遠の52ヘルツ
海の中でひとり
スイスイと
気持ちよさそうに通り過ぎる誰かとはちがう自分
泳ぎ方も、なにかちがう自分
わかってもらいたいと
願いながら
声をあげることもできない
闇夜の手探り
やがてそれもあきらめる
自分の居心地は自分にしか
わかり得ないのに
もしかしたら
そのおかしさにさえ気がつかぬままの
いのちもある
たったひとりのクジラたち
そこから救いあげることができるのは
本当に聴こうとする存在だけ
そんな人がひとりでも増えれば
今日も誰かを救えるのかもしれない
そして寄り添う人に
また寄り添う人がいてくれたなら
どんなに心強いことかを知る
ふたりの心の前に現れたくじらは
巨大に光る黒い体を空中で捻らせて何を言ったか
〝どうか彼女を幸せにしてください〟
全身に漲る感情は
海原を叩き割る
ざばざばと慌ててうごめく波間に
蹴散らされた海水が
おお粒のしぶきをきらめかせ消えていく
貴瑚は52ヘルツの音に耳をすませて
手をさしのべ愛を救った
晴れ上がる空と海を臨む高台で
笑顔が集まる光景に貴瑚と愛が和む
それは安吾が貴瑚にかけた言葉が辿り着かせた居場所だ
〝抜け出していい〟
〝生き方をかえてみない?〟
そして、そう教えてくれた彼さえも貫けなかった現実
深すぎる海に再び消えた
永遠の52ヘルツの響きを忘れてはいけないのだろう
誤字修正済み
気になる点もあるが、それ以上に前半とラストが素晴らしい
原作未読です。気になる点から書きます。
・宮沢の演技が一辺倒。大声で叫ぶか、暴力でしか感情の表現がない
・志尊淳の過去写真がアイコラ感がすごい
・志尊淳から宮沢への行為は、そこまでするか?と感じてしまった。確かに自意識が高い嫌味な感じはあるが、社会的地位も、金銭的にも充分すぎる、外面もいい。その彼の全てを蹴落とすようなことは必要だったのだろうか、もう少し手順はあったのではないかと思う。過去を知らない宮沢からすれば、志尊に対する嫉妬は当たり前だし、多少牽制してしまう気持ちも分かる。結局、杉咲を精神的にも肉体的にも傷付ける男にはなるが、どう見ても志尊の行為が引き金である。杉咲も幸せだと志尊に伝えていて、今後も仲良く友人として付き合っていきたいと伝えている以上、余計なことをしている、むしろ志尊が宮沢に嫉妬している部分もあるように見えてしまう。
そのことがあり、どうしても志尊の結末には、純粋に涙することができなかった。宮沢から志尊への仕打ちも、やられたことを考えると仕方なく見えてしまった。
気になったのはそれぐらいで、あとは皆さんのコメントにもあるように、杉咲花の演技がちょっと引くぐらいすごかったです。杉咲さんの涙につられて泣いてしまいそうになる程でした。
脇役も皆さんいい味を出されている方ばかりで、魅力的なキャラが沢山いました。
何より素晴らしいのは、子役の演技でした。前半の虐待シーンでは胸が詰まりそうになりますし、ラストの愛君の笑顔や、楽しそうに皆と接する姿には、涙を流さずにはいれませんでした。
気になる点もありましたが、色々と考えさせられる点もあり、感情も動かされる、素晴らしい映画でした。あまり観ている方が初日から多くなかったので、是非沢山の方に観ていただきたい映画です。
映画化されると知って原作を読みました。物凄く面白くて1日で読破してしまった作品!ほぼ原作通りの映画です。
実母によるネグレクト、家庭内DV、ヤングケアラー等の社会的弱者やトランスジェンダーの心の叫びは同じ悩みを持つ者にしか聞こえない。
52ヘルツという高音域で歌うクジラは少なく、その声は仲間には聞こえない。
人間も同じで弱者の声なき声は同じ悩みを持つ者にしか聞こえない。実母に舌を煙草で焼かれて声を失った少年が、同じ虐待経験を持つ者に心を開いた時に、発する声に涙しました。
主人公の真湖(通称キナコ)、親友の美晴、美晴の同僚でトランスジェンダーの安吾(通称アンコ)、キナコが逃避した大分で出会った少年愛(通称52,本名イトシ)は杉咲花、小野花梨、志尊淳、そして少年役の桑名桃李の演技が秀逸。
ネグレクト、虐待、娘に過剰依存するキナコの鬼母には真飛聖、少年の鬼母は西野七瀬。
腹立つくらいの演技でした。成島監督には「八日目の蟬」でも泣かされた。サスガです。
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