52ヘルツのクジラたちのレビュー・感想・評価
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染まる
原作読了も、数年前なので細部は記憶が怪しいけど、成島監督が内容を丁寧に描いていて好感。海をたゆたう感覚のテンポを崩さず、過酷なシーンも含めてすんなりと話が入ってくる。社会問題を取り扱いながら、声高に社会派ぶることもなく、ドラマとしてしつかり昇華させていて、感情の揺さ振り方についても後味が良い。
それはさりとて、杉咲花が秀逸。この方、どんな作品にもさらりと溶け込むところが怖い。作品に色を付けるというより、作品に染まる方面の役者さんだと思うが、ここまでいろんな役柄にはまるのだから、多くの監督は自分の作品で撮ってみたいと思うだろう。華奢であどけない顔立ちで、アイドル方面でもいけそうな明るい雰囲気だが、「市子」の恐ろしい難役や綾野剛と共演の「楽園」など、割と過酷な境遇の不幸な役が多い印象なのは、S系の監督達が、愛くるしい顔から恐怖や絶望の表情を引き出したくなるからなのかも。
主人公の人生を助けるミステリアスな岡田安吾役の志尊淳、とにかく友達思いの親友、三春役の小野花梨も、下手すると変に悪目立ちしそうな、キャラクターや立ち位置が難しい役どころかと思うが、うまくハマっていた。それほど出番は無いものの、ベテラン俳優陣も映画を引き締める。倍賞美津子、余貴美子は、それぞれ重要なターニングポイントで途中登場となるが、綺麗に物語の転調を支えていた。こうした演者や演出、物語など、良いチームワークで出来上がった秀作だと思った。
原作読んで無くとも、充分楽しめると思うので、おすすめできる作品です。
2時間半には収まらない
俳優陣の演技が素晴らしかった。
杉咲花ちゃん目当てに行ったけど、専務、宮沢氷魚君のモラハラの見え隠れする「アーン」のシーンとか絶妙に気持ち悪かった。志尊淳君の諦めた瞬間の光を失った目の演技。もちろん花ちゃんの絶望とか自分を取り戻していく感じも素晴らしい表情だった。先述のアーンや杏吾の似合わない髭も良い演出だと思う。
気になったのは2点。
CM見てる時から思ってたけど、テーマの割りに主題歌明るすぎないかな?終わり方見たら希望を持って終わるからあれで良いのか。微妙にしっくりきてない。
あと詰め込みすぎ。誰にも聞こえない心の叫びがテーマだし、気付くのは同じような痛みを抱えているから。だから、それぞれに背景がある。ありすぎて表面をサラッとと言うか、駆け足で通りすぎた感じが勿体ない。
きなこの母とぶつかりながらも完全に決別までで映画1本。
立ち直って恋心を感じる余裕も出来たのに失恋でクズ男につかまってから決別までで1本。
再出発して自分と似た境遇の子を救うで1本。
一つ一つ丁寧に3本の映画、もしくは1クールのドラマとしてじっくり見たいくらいぎゅーっと詰め込まれた映画。
うまくまとめたなぁ
現代社会の問題 家庭内暴力 家族介護 育児放棄 ジェンダーレス をこれだけ扱えばかなり暗いしんどい内容になると思うのですが、しんどいのはしんどいが希望の持てる所へ最終的に持っていくのは凄いですね。
確かに自殺等苦しい場面はありましたが、
とてもよかったです😄
永遠の52ヘルツ
海の中でひとり
スイスイと
気持ちよさそうに通り過ぎる誰かとはちがう自分
泳ぎ方も、なにかちがう自分
わかってもらいたいと
願いながら
声をあげることもできない
闇夜の手探り
やがてそれもあきらめる
自分の居心地は自分にしか
わかり得ないのに
もしかしたら
そのおかしさにさえ気がつかぬままの
いのちもある
たったひとりのクジラたち
そこから救いあげることができるのは
本当に聴こうとする存在だけ
そんな人がひとりでも増えれば
今日も誰かを救えるのかもしれない
そして寄り添う人に
また寄り添う人がいてくれたなら
どんなに心強いことかを知る
ふたりの心の前に現れたくじらは
巨大に光る黒い体を空中で捻らせて何を言ったか
〝どうか彼女を幸せにしてください〟
全身に漲る感情は
海原を叩き割る
ざばざばと慌ててうごめく波間に
蹴散らされた海水が
おお粒のしぶきをきらめかせ消えていく
貴瑚は52ヘルツの音に耳をすませて
手をさしのべ愛を救った
晴れ上がる空と海を臨む高台で
笑顔が集まる光景に貴瑚と愛が和む
それは安吾が貴瑚にかけた言葉が辿り着かせた居場所だ
〝抜け出していい〟
〝生き方をかえてみない?〟
そして、そう教えてくれた彼さえも貫けなかった現実
深すぎる海に再び消えた
永遠の52ヘルツの響きを忘れてはいけないのだろう
誤字修正済み
気になる点もあるが、それ以上に前半とラストが素晴らしい
原作未読です。気になる点から書きます。
・宮沢の演技が一辺倒。大声で叫ぶか、暴力でしか感情の表現がない
・志尊淳の過去写真がアイコラ感がすごい
・志尊淳から宮沢への行為は、そこまでするか?と感じてしまった。確かに自意識が高い嫌味な感じはあるが、社会的地位も、金銭的にも充分すぎる、外面もいい。その彼の全てを蹴落とすようなことは必要だったのだろうか、もう少し手順はあったのではないかと思う。過去を知らない宮沢からすれば、志尊に対する嫉妬は当たり前だし、多少牽制してしまう気持ちも分かる。結局、杉咲を精神的にも肉体的にも傷付ける男にはなるが、どう見ても志尊の行為が引き金である。杉咲も幸せだと志尊に伝えていて、今後も仲良く友人として付き合っていきたいと伝えている以上、余計なことをしている、むしろ志尊が宮沢に嫉妬している部分もあるように見えてしまう。
そのことがあり、どうしても志尊の結末には、純粋に涙することができなかった。宮沢から志尊への仕打ちも、やられたことを考えると仕方なく見えてしまった。
気になったのはそれぐらいで、あとは皆さんのコメントにもあるように、杉咲花の演技がちょっと引くぐらいすごかったです。杉咲さんの涙につられて泣いてしまいそうになる程でした。
脇役も皆さんいい味を出されている方ばかりで、魅力的なキャラが沢山いました。
何より素晴らしいのは、子役の演技でした。前半の虐待シーンでは胸が詰まりそうになりますし、ラストの愛君の笑顔や、楽しそうに皆と接する姿には、涙を流さずにはいれませんでした。
気になる点もありましたが、色々と考えさせられる点もあり、感情も動かされる、素晴らしい映画でした。あまり観ている方が初日から多くなかったので、是非沢山の方に観ていただきたい映画です。
映画化されると知って原作を読みました。物凄く面白くて1日で読破してしまった作品!ほぼ原作通りの映画です。
実母によるネグレクト、家庭内DV、ヤングケアラー等の社会的弱者やトランスジェンダーの心の叫びは同じ悩みを持つ者にしか聞こえない。
52ヘルツという高音域で歌うクジラは少なく、その声は仲間には聞こえない。
人間も同じで弱者の声なき声は同じ悩みを持つ者にしか聞こえない。実母に舌を煙草で焼かれて声を失った少年が、同じ虐待経験を持つ者に心を開いた時に、発する声に涙しました。
主人公の真湖(通称キナコ)、親友の美晴、美晴の同僚でトランスジェンダーの安吾(通称アンコ)、キナコが逃避した大分で出会った少年愛(通称52,本名イトシ)は杉咲花、小野花梨、志尊淳、そして少年役の桑名桃李の演技が秀逸。
ネグレクト、虐待、娘に過剰依存するキナコの鬼母には真飛聖、少年の鬼母は西野七瀬。
腹立つくらいの演技でした。成島監督には「八日目の蟬」でも泣かされた。サスガです。
誰かに聴かれたくなくて、52ヘルツを選んでいる人の方が多いように思える
2024.3.1 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(135分、G)
原作は町田そのこの同盟小説(中央公論新社)
虐待経験のある女性が虐待児を保護する中で過去を想起し、前向きに生きることを決意する様子を描いたヒューマンドラマ
監督は成島出
脚本は龍居由佳里
物語は、東京から海辺の町(ロケ地は大分県大分市他)に移住する三島貴瑚(杉咲花、幼少期:酒井杏寿)が描かれて始まる
旧友の土建屋・村中(金子大地)に住居の手入れをしてもらっていたが、町で噂されている内容を聞かされて困惑してしまう
貴瑚の祖母がこの家に男を連れ込んだなどの噂話が高齢者の間で広がっているというもので、貴瑚はそれを否定することもなく、あまり気にはしなかった
ある日、防波堤から海を眺めていた貴瑚は、かつて自分を助けてくれたアンさんこと岡田安吾(志尊淳)のことに想いを馳せる
彼から教えてもらった「52ヘルツのクジラの歌声」を聴いていたが、徐々に雲行きが怪しくなり、突然の大雨に見舞われてしまう
帰途に着こうと急ぐ貴瑚だったが、突然、腹部に激痛を感じて、その場に倒れ込んでしまう
そんな彼女を助けたのが、地元の少年(桑名桃李)だったが、彼はある理由で言葉を発することができなかったのである
村中から少年のことを聞いた貴瑚は、彼の母・琴美(西野七瀬)が働いている定食屋へと向かう
仕事終わりの琴美を捕まえた貴瑚だったが、琴美は「産みたくて産んだんじゃない」と言い放ち、「あの男がつけた名前なんか忘れた」という
そして、彼女が少年のことを「ムシ」と呼んでいたこともわかった
貴瑚は少年を保護することに決めたが、それは半ば誘拐に近いもので、その道が正しいかどうかは何とも言えなかったのである
物語は、そんな彼女の元に東京で再会した高校時代の友人・美晴(小野花梨)がやってくるところから動き出す
彼女は東京に恋人・鈴木匠(井上想良)を残して、仕事を辞めてこの地に来たという
そして彼女は、「アンさんと何があったの?」と貴瑚がこの場所に来た理由についてふれていくのである
映画は、美晴の言葉を起点した回想録になっているが、最終的に美晴はアンさんがどうなったかを知らずに終わる
アンさんとの出会い、美晴との再会、そして、その後に出会う新名主税(宮沢氷魚)との生活というものがメインになっていて、それらの想起の果てに、貴瑚の新しい生活が始まるという感じになっている
アンさんの手助けで父(奥瀬繁)の介護生活から抜け出すことができた貴瑚は、母・由紀(真飛聖)と離れて暮らすことになるものの、アンさんに感じた愛情を彼は受け入れることができずにいた
それによって、新しい職場の上司・新名との出会いと生活というものが始まるのだが、貴瑚の話に出てくるアンさんに興味を持った新名は会いたいと言って場を設けることになる
新名はアンさんが女性だと思っていたが、男性だったことから感情に火がつき、それによって険悪な雰囲気になってしまう
アンさんは新名が貴瑚を幸せにできると思えず、そして「ある行動」へと至ってしまうのである
映画は、52ヘルツのクジラに例えられるように、声をあげても届かないジレンマというものを描いていく
その声をどのように受け取るかという感度の問題になっているが、クジラが聞かれたくない歌なので52ヘルツで歌っているかもしれないという可能性には言及しない
これは、少年を助けたことによって、さらに状況が悪化している現実とリンクしていて、そこに関わるには相当な覚悟と配慮が必要であることを伝えてくれる
とは言うものの、声なき声に耳を傾けるにはどうしたら良いかと言う話ではなく、発信者がどうしたいかを決めなければ前には進めないと言う感じに描かれていた
少年の保護は母親の遺棄があるからできるのだが、少年を持つことで得られるような社会保障に目をつけて搾取すると言う親もいるので、今回の場合は知恵が回らない母親だったから問題にならなかった、と言う感じに結ばれていたように思えた
いずれにせよ、かなり重たい話で、アンさんのトランスジェンダー設定は映画からは意外とわかりにくい
生物学的女性がホルモン治療をして男性っぽくなっているのか、その逆なのかがわかりづらく、これが物語の展開におけるミステリー要素になっている部分もバランスが悪い
公式HPではトランスジェンダーであることを隠さずに公表しているが、映画内ではミステリー要素となっているので、この辺りが一貫していないように思えた
また、アンさんの苦悩は理解できても行動までは擁護しようがないので、アンさんが貴瑚を救いたいのならば、自分の全てを曝け出すだけの覚悟が必要だったのかな、と感じた
結局のところ、アンさんは貴瑚に自分のことは言えず、それは「言えば関係が壊れると思っているから」で、それは裏を返せば心から貴瑚を信用していないように見えてしまう
それゆえに、アンさんの52ヘルツが独りよがりに見えてしまうのが難点だったのだが、あの生活を受け入れている貴瑚がそれに気づけるとも思えないので、新名と会う前のあの瞬間が最後のチャンスだったのだろう
普通にくらしたい
原作未読です。
映画の告知で本屋大賞受賞を知りました。
試写会にて一足先に鑑賞しました。^ ^
様々な生きづらさを抱えている人たちの話
貴湖(杉咲さん)を軸に
貧困、介護、DV、性同一性障害
ネグレクト…
まだまだ見逃した事もあるかも、です。
人は幸せになれると信じて
頑張って暮らしている。
誰かに相談すること無く、手段も知らず
空回りや、見誤ったり
家族(子供)を傷つけ
あるいは、自分で自分を傷つけてしまう
わからない?見えていない、気付けない
それぞれが、もがく様子を丁寧に表現されていました。
「○○だから」に、縛られて
周囲にSOSを発信する事なく
絶望し孤独にくらしている。
貴湖が、たくさんの問題に直面し絶望する
友達に助けられ、時に一人で乗り越え
強くなり愛情が深くなる様は
見応えあります。
大分の美しい景色や方言…
倍賞美津子さん出演はあまり
なかったのですが、大分弁に
ほっこりしました。
志尊さんよかった
他の役者さんも素晴らしかったのですが
やはり、志尊さん綺麗で素敵でした。
是非映画館で観てください。
今年のベスト3に入る作品
この作品は原作も読んでいましたが、映画は原作に負けず劣らず素晴らしい出来だと思います。
原作から省いてある部分もある反面、さらっとしか描かれていなかった部分を映画では丁寧に描かれていたり、映画として見ごたえのある作品となっています。
なんと言っても、杉咲花さんの演技がすごいです。それとアンさんを演じる志尊淳さんも、悩めるアンさんを見事に演じています。
今年はまだ始まったばかりですが、この作品は今年のベスト3には入る作品だと思います。
必見です。
52ヘルツの歌声は今日もあちこちで聞こえるはず
クジラの歌声って聞くとロマンチックに感じるのに、この52ヘルツのクジラの歌声は泣き声に近いイメージがある。
届かない声を聞くには、同じように届かない声を持つしかないのか。
知った痛みだけを感じていたのでは、この世の不公平も不幸も決して消えないだろう。
杉咲花の貴瑚、すごかった。
貴瑚を廃人の状態から救い出した安吾だけど、安吾の苦悩は貴瑚のそれより見ようによってはしんどかったと思う。
変えられるものと変えられないもの。
心と体は一体化しているので、切り離しては生きていけない。
この世の地獄を生き抜くにはそのままの自分を受け入れてくれる愛が必要だという事をまた思い知った。
原作を読んで思う。
52ヘルツの鯨について考える。
知らなければ気づかずにいた孤独が、仲間がいるかもしれないと知ってしまった時にどれほどの重さでのしかかってくるのかと想像したら、とてもじゃないけど立っていられないわね。
一人で楽しく歌ってた歌が、実は仲間を呼ぶ手段だと言うことに気づいてしまうのだろうか。それとも最初から、仲間を呼ぶために歌ってるんだろか。どちらにしても壮大な寂しさは消えない。
そして貴瑚はそれを自分の境遇と一緒だと考える。
仲間であるはずの家族の中で、一緒に暮らしているのに自分の声が届かないってどんな感じなんだろう。
『ウーマン・トーキング』の時も、同じコミュニティの中で同じ思想を持っていたはずの男性と通じる言葉を女子は持たなかった、言葉がまるで通じない人たちとの暮らしを強要されていた、と私は思ったのだけど、この話を読んだ時にも思った。
こんなに色んなものが発達した今でも消えない児童虐待、毒親、LGBTQ、介護のような社会問題が、貴瑚の人間関係を通して複雑に絡み合っていく様、いや、後半になるにつれ絡まっていたものを解いていく作業になるのか?何より貴瑚の全てを変えたアンさんだけど、アンさんのペンチで掴んで捻るような猛烈な心の痛みと葛藤がとにかく強烈で、読み進めるのが辛かった。
貴瑚の名前は、珊瑚の一部にもなってて、とても美しい意味をもつ素敵なお名前だと思う。生まれた時はきっとすごく大事に思ってつけられた名前のはずなのに。
虐待で亡くなる子どもの名前を見てると、熟考された可愛いお名前が多い。
そういうニュースを見るたびに、生まれた時は絶対みんな生まれてきてくれてありがとうの気持ちで名前をつけたんだろなぁと思わずにいられない。
心から悲しくなる。
いまこの瞬間にも52ヘルツの歌声を放っている人々が沢山いると思う。
出来るだけその声を聞き逃さないように、キャッチできるように、自分のアンテナを日々チューニングし直していかないといけないなと思う。
泣ける映画とかじゃない。
心が痛くて自然と流れる涙もあるのだ。
要ハンカチ・・・本屋大賞受賞作は間違いない
現代的なテーマがこれでもかというくらいに詰め込まれているように感じるが、
声なき声を持つ人、苦しくても声を出せない人がそれだけ多いという事であるし、その声を聴こえるようでありたい、と思わせてくれる感動作だった。
原作小説も読んだ当時泣いたが、それから3年経って時世もアップデートされている中、映画も丁寧にアップデートされていると感じる。素晴らしい。
「八日目の蝉」の成島出監督の演出に進境著しい主演の杉咲花も、共演の志尊淳もそれに応えている。ドラマに寄り添う音楽が涙を紡ぎ、エンディングのSaucy Dogの歌がまた救いになる。
ベタな表現でいうと、絶望からの希望に大泣きしてしまった・・・本屋大賞受賞作は間違いない。
補足:資料で確認出来なかったけど、音楽の小林洋平って「異動辞令は音楽隊!」の人かな。とても良かった。
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