劇場公開日 2024年3月1日

「泣くな。受けとめろ。」52ヘルツのクジラたち あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5泣くな。受けとめろ。

2024年3月1日
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鑑賞方法:映画館

重い、しんどい映画である。昔からあることだか、映画の感想を語るとき、泣いた、号泣したで片付けてしまう人がいる。エモーショナルになることはもちろん悪くはない。でもそれだけでは済まない作品もあってこの作品もその一つである。泣きたい、感動したい、という気持ちを歯を食いしばって我慢して映画からのメッセージを真剣に受け止め、理解し、自分の血肉としたいと心から思った。
さてこの映画からのメッセージだが、簡単にまとめてしまうと、聴こえにくい声を聴け、愛されるためにはまず愛せ、ということなのだろう。ただよく理解するためには原作は読んでおいた方が良い。
さすが「八日目の蝉」を撮った成島出監督で実に手際良く原作世界を表現している。ただ元々が一筋縄ではいかない深みを持った小説なだけに映画だけ観たのではわかりにくい部分はあると思う。
というか、この作品の場合は、原作と映画は補完関係にあるといっても良い。
軸になるのは母親の子への虐待である。貴瑚が母親から受ける仕打ち、52が母親から受ける仕打ちが連鎖して(この二組は全く縁故はないにもかかわらず)子供たちを苦しめる。原作では貴瑚の異父弟と52の祖父が虐待に大きく関与しているがこの者たちは映画には登場しない。もちろん母親たちには同情すべき点は一片もない。ただ虐待の本質を捉えるためには背景を知っておくべきで原作は読んでおいた方が良い。
一方で、アンさんの事情、心情についてはむしろ映画の方が詳しい。原作ではキナコへの思いをあえて書ききっていないようなのだが、映画はここをくっきり丁寧に描き出している。
繰り返すが、この作品については、原作を読んだ上で映画を観た方が良い。その方がこの世界から何を受け止めなければいけないかよく分かる。
最後に、この映画が、原作に匹敵するだけのメッセージ性の高さを獲得できたのは、ひとえに杉咲花と志尊淳を中心とした若手俳優の演技にあると思う。彼らの役作りに向けた真摯な姿勢は痛いほど伝わってきてとても嬉しかった。

あんちゃん