コラム:21世紀的亜細亜電影事情 - 第6回
2014年2月17日更新
第6回:アジアを席巻“半沢の倍返し” 堺雅人、中国で「世界一美しい人」に選出
昨年日本を席巻したドラマ「半沢直樹」と「あまちゃん」。大ヒットのニュースはアジアにも瞬く間に伝わった。半沢の決めぜりふ「倍返しだ!」は、中国語訳の「加倍奉還」として中華圏で流行。今回はその余波を追ってみたい。
半沢人気が特に盛り上がったのは台湾だろう。ドラマは昨年10月、ケーブルテレビの日本語チャンネル「緯来日本台」で放送された。最終回の平均視聴率は2.0%と、開局以来最高を記録した。続編を匂わせる最終回に、視聴者から「終わりと思えない」、「納得がいかない」など熱い意見が続出。台湾メディアも続編製作への期待を示すなど、半沢人気は社会現象と化した。
そんな勢いに乗じてか、台湾ドラマ界のヒットメーカーで女性プロデューサーのチェン・ユーシャン(陳玉珊)さんが、“女性版半沢直樹”構想を発表した。人気女優のジョー・チェン(陳喬恩)を主演候補に挙げ、チェン氏は「女性が職場でいかにのし上がるかを描きたい」と意欲満々。青春物やラブストーリーが主流の台湾ドラマ界に、新風を呼ぶことが狙いという。ドラマの中の半沢の奮闘は、海の向こうの製作者たちも刺激した。
半沢人気は香港にも飛び火した。インターネット上に昨年秋、主な役を香港人俳優に入れ替えた“香港版半沢直樹”のキャスティング表が広まった。あてられた俳優のイメージが似ており、ロゴなどもリアルに作られていることから、ネット上では本物と思い込む人が続出した。
続いて、日中関係も冷え込んで久しい中国。ポータルサイト大手・捜狐(SOHU)は昨年末、独自に選んだ「世界で最も美しい50人」を発表。「半沢直樹」主演の堺雅人が、並みいるハリウッドスターを抑え、なんと1位に選ばれた。捜狐は「半沢直樹」を「神劇(神ドラマ)」と紹介。堺が早稲田大学で中国文学を学んだこと、中華料理が好きなことなども伝え、「中国に本格進出すべきだ」とアドバイス。エンターテインメントに国境はないようだ。
興味深いのは、中国での“放映”事情かもしれない。日中関係が悪化した12年秋以降、中国のテレビでは日本作品の放映がほぼなくなっているという。しかし、アニメなど日本作品のファンは多い。そこで使われるのが動画共有サイトだ。例えば各国のテレビ番組をリアルタイムで流す「風雲直播」。中国本土のチャンネルだけでなく、香港、台湾、韓国、日本の局も網羅し、視聴は無料。「半沢直樹」も日本での放映当時、同時に見られたという。知財保護意識の高い日本では考えられない状況だが、中国では当局が問題サイトを摘発しても、すぐに別のサイトが生まれる。イタチごっこの状態だ。
さて「あまちゃん」はどうか。やはり最初にテレビ放映されたのは台湾だった。中国語タイトルは「小海女」で、昨年11月から今年1月まで放送された。日本で流行語にもなった方言「じぇじぇじぇ」は、中国語で「接接接(ジエジエジエ)」と表記。番組公式サイトには掲示板が設けられ、視聴者が熱心に質問や意見をアップしている。中国語メディアも主役の能年令奈の横顔、年末のNHK紅白歌合戦での様子などを細かく伝えている。
“クールジャパン”の旗印の下、日本のコンテンツ輸出が叫ばれる昨今。「半沢直樹」、「あまちゃん」人気の海外波及にも、成功のヒントがありそうだ。
筆者紹介
遠海安(とおみ・あん)。全国紙記者を経てフリー。インドネシア(ジャカルタ)2年、マレーシア(クアラルンプール)2年、中国広州・香港・台湾で計3年在住。中国語・インドネシア(マレー)語・スワヒリ語・英語使い。「映画の森」主宰。