コラム:清水節のメディア・シンクタンク - 第12回

2015年4月16日更新

清水節のメディア・シンクタンク

第12回:ゴジラが吠える歌舞伎町シネコンは、IMAXからアニメ・韓流まで“全部入り”!

■ピカデリー、バルトを上回る「12スクリーン/2347席」

歌舞伎町を中心とするエリアには、14の劇場がひしめき合う時代もあった。かつて映画とは猥雑な空間にこそ似つかわしいカルチャーであり、歌舞伎町の活力にとって映画館は重要な要素だった。2014年末に新宿ミラノ座も閉館し、歌舞伎町に1スクリーンもないという空白期間が生まれてしまう事態を誰が想像できただろう。

1950年代の映画最盛期はともかく、1990年代に興収80億円規模のマーケットだった新宿エリアに陰りが差し始めたのは、ゼロ年代に入ってから。要因のひとつは郊外から始まったシネコンの浸透だ。すぐさま品川や六本木にも都市型シネコンが現れ、2006年の新宿興収は35億円へ落ち込む。回復の決め手も、やはりシネコンだった。2007年にオープンした新宿バルト9(9スクリーン/1842席)によって興収50億円台に、2008年の新宿ピカデリー(10スクリーン/2237席)の開業で59億円となり、2014年には75億円の市場規模に戻した。

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■IMAX、MX4D、ドルビーアトモス…重装備の最強スペック

満を持して登場する歌舞伎町の巨大シネコン「TOHOシネマズ新宿」は、12スクリーン/2347席。最後発のシネコンとして出店するにあたり、まず目につくのは最新設備の導入だ。それも映画ファンのニーズの高い設備を網羅しようという意欲を感じ取ることができる。TOHOシネマズとして初の「IMAXデジタルシアター」の導入。残念ながら、例によってIMAX社の方針により、スクリーンサイズは未公表のまま。これまでのIMAXの音響フォーマットは、基本的に6.1chだったが、最大12.1chまで対応可能なIMAXイマーシブ・サウンドシステムを日本初採用。天井にも4つ設置されたスピーカーから、音が降り注ぐ。

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6月下旬には体感型4Dシアターをオープンさせる。規格は韓国発の4DXではなく、米国メディアメイション社が開発した「MX4D」だ。場面に合わせ、客席のシートが前後・左右・上下に駆動し、風・ミスト・香り・ストロボ・煙など11種の特殊効果と連動するアトラクション。4DXの独占市場を切り崩す新機能に期待しよう。

音響面では、スクリーン9に「ドルビーアトモス」を搭載。また、先頃リニューアルしたTOHOシネマズ六本木のスクリーン7に採用された米国クリスティ社製のスピーカーシステム「ヴィヴ・オーディオ」を、同・新宿は12スクリーンすべてに導入。音の指向性が高まり、上下に拡散しないため、劇場内音響のムラを解消する。座席は、同・日本橋から採用された木目調の「プレミア ボックス シート」や、電動リクライニングシート「プレミア ラグジュアリー シート」、最前列に配置された「フロント リクライニング シート」で高級感を演出する。

■観客の流れを変える決め手は、スクリーンまでの導線か

最新の重装備で臨むTOHOシネマズ新宿は、観客の流れをどう変えるのか。「IMAX、通常サイズ、MX4D、どれで観るか選べる劇場です。スクリーン数が多いお陰で選択肢が増えます」と語るTOHOシネマズ新宿の小林正樹支配人は、こう続けた。「これは個人的な考えですが、商圏は相当広くなると思っています。IMAXという強力な武器を持ちましたから。ビルの設計段階から導入を決めて造った本格的なIMAXなので、映画好きの方でよりよい環境で観たいという方なら、少々遠くても、電車を乗り継いででも、お越し頂けるのではないかと思っています。大スクリーンを擁した新宿ミラノ座さんに、足繁く通っていたオールドファンの方々にも是非お越し頂きたいと思っております」。郊外に点在する関東圏のIMAXにとって、最大の脅威になることは間違いない。

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器としてのTOHOシネマズ新宿が、先行する2つのシネコンから観客を奪い取る要素は何だろう。決め手となるのは両館のデメリットだ。新宿ピカデリーは、チケット購入後かなり上層階まで上がらねばならず、ロビーからの導線も決して良くない。ビルの9~13階に入っている新宿バルト9は、1階のエレベーター前で混雑して上に上がるまでに時間がかかることも多い。「われわれの劇場は、セントラルロードから真っ直ぐ来て1度折り返すだけでロビーフロア。そこから1度折り返すだけですべてのスクリーンへ行けます。使いやすさ、導線の良さを味わって頂けるでしょう。スペック的にも日本随一で最強の映画館です」(TOHOシネマズ新宿支配人・小林正樹)

では、作品編成面について、その特徴を見ていこう。

>>次のページ:韓流やアニメ編成に、12スクリーンをフル活用 

筆者紹介

清水節のコラム

清水節(しみず・たかし)。1962年東京都生まれ。編集者・映画評論家・映画ジャーナリスト・クリエイティブディレクター。日藝映画学科中退後、映像制作会社や編プロ等を経て編集・文筆業。映画誌「PREMIERE」やSF映画誌「STARLOG」等で編集執筆。海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」日本上陸を働きかけ、DVD企画制作。著書に「いつかギラギラする日/角川春樹の映画革命」、新潮新書「スター・ウォーズ学」(共著) 。WOWOWのノンフィクション番組「撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画制作でギャラクシー賞、民放連賞最優秀賞、国際エミー賞受賞。

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