コラム:清水節のメディア・シンクタンク - 第10回

2014年9月12日更新

清水節のメディア・シンクタンク

第10回:厳選 ソードアクション十番勝負! 「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」の殺陣革命

■最高の偶然に賭けるノンフィクション的な撮影

アクション監督・谷垣健治は、アクションに偶然の産物を要求する。何十回、何百回とテイクを繰り返す中で訪れる、たった一度の最高の偶然。それは、NHK時代に確立した大友啓史の演出手法と合致する。俳優が行う以上、アクションもまた演技である。数台のキャメラによる長回しによって、スタッフ&キャストをギリギリまで追い詰め、最大限の能力を引き出す。つまり、高度な即興性によって「るろ剣」の映像は成立している。

ポスプロ段階で効果的なアクションに見えるように作り出すのではなく、撮影現場で全身全霊を懸けるという原初的な行為。この身体性至上主義は、ドキュメンタリーあるいはノンフィクションに近いものであり、香港活劇の伝統であるカット割り&編集によって完成させる方法論とは対照的だ。アクション監督ユエン・ウーピンは、キン・フー監督作「侠女」が切り拓いた“ありえない動き”のモンタージュが生み出すファンタスティックなアクションを発展させ、CGとの融合によって「マトリックス」を創造した。「るろ剣」はその方法論は採用することなく、黒澤明が「七人の侍」で導入したマスターショット方式の一回性に勝負を賭けているのだ。

(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会
(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

■大河内傳次郎を超えるべく挑んだ続編2部作

2012年の1作目の撮影終了間近、大友啓史は、大河内傳次郎の作品を観たという。1920年代に人斬り「丹下左膳」などでブレイクした、戦前日本を代表する時代劇の大スター大河内には、日本に侍が存在した時代のDNAが濃厚で、しかも映画メディアの文法が成熟する以前の作品ゆえ、殺陣もまたアナーキーだった。映画史的には、草創期の時代劇は本身を使用しており、大河内が所属した新国劇の影響から、模擬刀を当てて斬る動作を採り入れたという経緯がある。脇差を振り回し、跳び上がって相手を威嚇し、ルール無用かつ常軌を逸した大河内傳次郎の殺陣を観て、大友は「まだ超えていない」と脱帽し、続編を撮る覚悟を固めたという。

■計4時間34分の超大作から十番勝負をセレクト!

そうして完成した「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」。興行上は2部作公開だが、合計4時間34分の超大作と考えたい。アクションシーンは、細かい場面もカウントすれば、のべ50ヵ所以上に及ぶ。ここで、その中から“最高の十番勝負”を選び出してみよう。時系列に並べるのも面白味がないので、独断と偏見によるランキングを付けさせて戴こう。[警報!]ネタバレも含むので、先を読み進むか否かは各自判断してほしい。

では始めよう。まず第10位は、【斎藤率いる警察vs志々雄軍団】in摂津鉱山。「京都大火編」冒頭の志々雄登場シーンは、熊本の万田坑と栃木の採石場でロケを敢行。志々雄のアジトには、巨大なやぐらが組まれ、紅蓮の炎が燃え盛る。戦艦煉獄を製造する製鉄所でもあるのか溶鉱炉も備え、インパクト大だ。ここでは、斎藤の手下である警官たちが縛って吊されており、次々と落下死させられる。「香港国際警察/NEW POLICE STORY」でジャッキー・チェンの部下が天井から吊された場面へ、過激にオマージュ。宗次郎の殺陣が際立つ。笑みさえ見せながら、片足でケンケンパして予測不能な動きを見せながら人を斬る、彼の恐ろしさを強く印象づけている。

(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会
(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

■【剣心vs張】の組立て、【剣心vs宗次郎】の速度

第9位は、【剣心vs張】at神社。「京都大火編」中盤のバトルだが、第1作の外印戦に相当するバトルと言える。外印を演じた綾野剛は「仮面ライダー555」出身で、張に扮する三浦涼介は「仮面ライダーオーズ/OOO」出身という特撮ヒーロー番組つながり。折れたままの逆刃刀しか手にしていない剣心に対し、2枚の刃を合体させた連刃刀で斬りかかる、張の向日性の狂気。障害物なき神社の広い敷地で、閉所を見つけ出し、そこへ向かうことで独自のアクションを展開する。谷垣の振付けでなければ、間違いなく冗長な場面に陥っていたであろう。

第8位は、【剣心vs宗次郎】in新月村。剣心にとって「京都大火編」で最も重要な戦いだ。宗次郎=神木隆之介の立ち回りのスピードに、ただただ圧倒される。武侠映画特有の重力に逆らうファンタスティックな振付けを基本的には回避する「るろ剣」だが、宗次郎がムササビのように舞い上がる瞬時のインサート・ショットはハッとさせながらも、リアルを逸脱していない。片足で小さくステップして、瞬時に相手との間合いを詰める“縮地”まで披露する宗次郎は、最後に剣心の逆刃刀を折ってしまうという驚愕の強さを見せつける。

>>次のページ:【清十郎vs剣心】は奥義を知る命懸けのリアルバウト 

筆者紹介

清水節のコラム

清水節(しみず・たかし)。1962年東京都生まれ。編集者・映画評論家・映画ジャーナリスト・クリエイティブディレクター。日藝映画学科中退後、映像制作会社や編プロ等を経て編集・文筆業。映画誌「PREMIERE」やSF映画誌「STARLOG」等で編集執筆。海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」日本上陸を働きかけ、DVD企画制作。著書に「いつかギラギラする日/角川春樹の映画革命」、新潮新書「スター・ウォーズ学」(共著) 。WOWOWのノンフィクション番組「撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画制作でギャラクシー賞、民放連賞最優秀賞、国際エミー賞受賞。

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