コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第49回

2013年5月27日更新

芝山幹郎 テレビもあるよ

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、毎月、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「ギター弾きの恋」

架空のジャズ・ギタリストを好演したペン(左)は 本作でアカデミー賞にノミネートされた
架空のジャズ・ギタリストを好演したペン(左)は 本作でアカデミー賞にノミネートされた

エメット・レイは架空のジャズ・ギタリストだ。映画がはじまってすぐに、タネ明かしがされる。ウッディ・アレンをはじめ何人かがエメットの人となりを語るのだが、そのなかにA・J・ピックマンなる評伝作家が混じっている。その人物に扮するのが、野球史研究家のダニエル・オクレントなのだ。私が顔を知っているくらいで、アメリカの野球好きの間では著名な人物だ。オクレントはまことしやかな表情で御託を並べる。まったく、もう。

これが「ギター弾きの恋」の冒頭部分だ。つまり、作りはドキュドラマ。いそうだな、こういう男、と感じながら、観客は嘘つきの名手アレンの語り口に乗せられていく。

邦題が示すとおり、エメット(ショーン・ペン)にはハッティ(サマンサ・モートン)という恋人ができる。ハッティは、口の利けない地味な娘だ。一方のエメットは、気障で嫌味で派手好きの芸人だ。当然ながら、ふたりの仲は荒れ模様となる。

アレンは、相変わらずカラフルな語り口でふたりの「難破」を描く。役柄の設定もあるが、モートンはサイレント映画の演技術でそれに応える。私は、「第七天国」のジャネット・ゲイナーを思い出した。ウブで健気でいじらしく、本気になると進んで服を脱ぐ。

そんなハッティの値打ちに、エメットはなかなか気づかない。ペンも、「才能のあるアホ」を演じるのは得意中の得意だ。酒と女に迷い、仕事に穴を開け、ハッティを何度も悲しませ、それでも天上の音色を奏でられる男。

いつものアレン映画とは毛色がちがうが、おかしくて、苦くて、痛烈なことに変わりはない。それにしても、ペンのギター演奏は板についている。実際はハワード・オールデンの弾く音だが、ペンの指遣いがあまりに達者なので、演奏の場面はすべてワンショットだ。コメディとジャズをこんなにすんなり接ぎ木できるのは、やはりアレンだけだろう。

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ギター弾きの恋

WOWOWシネマ 6月25日(火) 16:30~18:15

原題:Sweet and Lowdown
監督・脚本:ウッディ・アレン
撮影:チャオ・フェイ
音楽:ディック・ハイマン
出演:ショーン・ペンサマンサ・モートンユマ・サーマングレッチェン・モルウッディ・アレン
1999年アメリカ映画/1時間36分

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「おいしい生活」

とんちんかんの限りを尽くす、にわか成金の泥棒夫婦 に扮したアレン(左)とトレイシー・ウルマン
とんちんかんの限りを尽くす、にわか成金の泥棒夫婦 に扮したアレン(左)とトレイシー・ウルマン

近所の空き家から穴を掘って銀行に忍び込もうとしていた泥棒の一味が、まちがえて別の場所に出てしまった。さあ、どうしようか。

おいしい生活」の第1幕は、始まってすぐにこのヤマ場を迎える。どこかで見たな、この場面。そうか、銀行と質屋のちがいはあるが、マリオ・モニチェリ監督の「I Soliti Ignoti」(1958。「正体不明の連中」という意味。「マドンナ通りの大事件」という英語の題でクライテリオンからDVDが出ている)が似た設定のコメディだった。

長くなるので、比較は省略する。ただ、特筆すべきは「おいしい生活」の快調なスタートだ。大金強奪計画があえなく挫折する一方、泥棒(ウッディ・アレン)の妻(トレイシー・ウルマン)が偽装で開いたクッキー屋が大成功するのだ。落語にもあったか、こんな話。

というわけで、トンマな泥棒たちはクッキー会社の役員に収まる。が、話はさらに転がる。絵に描いたようなにわか成金の泥棒夫婦は、セレブの仲間入りをしようとしてとんちんかんの限りを尽くすのだ。妻は怪しげな画商(ヒュー・グラント)によろめいて単語の言いまちがいを繰り返し、妻にうんざりした夫は、妻の従姉(エレイン・メイ)とつるんでジャンクフードをむさぼり食う。

ここで笑わせてくれるのが、ウルマンとメイの馬鹿女コンビだ。コメディエンヌのウルマンが巧いのは当然としても、通常は脚本家として知られているメイのおかしさは相当のものだ。急ハンドルを切って話を逸脱させていくアレンの演出を柳に風と受け流し、メイはのっそりむっつりのデッドパン演技で映画をさらう。アレン映画の主人公を振り回すのは、若い娘とは限らないのだ。展開はときおりもたつくものの、この映画の楽しい台詞術にはぜひとも耳を傾けていただきたい。

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おいしい生活

WOWOWシネマ 6月28日(金) 14:30~16:05

原題:Small Time Crooks
監督・脚本:ウッディ・アレン
製作:ジーン・ドゥーマニアン
撮影:チャオ・フェイ
出演:ウッディ・アレントレイシー・ウルマンヒュー・グラントエレイン・メイマイケル・ラパポートエレイン・ストリッチ
2000年アメリカ映画/1時間35分

筆者紹介

芝山幹郎のコラム

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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