「眠狂四郎無頼剣」「バッド・ルーテナント」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第14回

2010年12月28日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、特にそうだ。劇場での上映が終わった後、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「眠狂四郎 無頼剣」

「勝負」、「炎情剣」、「無頼剣」。

私が選ぶ眠狂四郎シリーズのベスト3は以上の諸作品だ。なんだ、三隅研次の監督作品ばかりじゃないか。われながら苦笑してしまうが、54歳で夭折したこの監督の美学には見飽きることがない。なによりも、彼の作り出す構図と省略の見事さは他の追随を許さない。

ことに「眠狂四郎 無頼剣」のユニークさは群を抜いている。まず、脚本が伊藤大輔とあって、構築が重層的で、人と人のからみが入り組んでいる。となると、いつもはニヒルでクールでアナーキーな狂四郎(市川雷蔵)も、今回は女を抱く暇さえない。しかも伊藤大輔は、敵役をただの横暴な悪党に収斂させない。テロリストを率いる愛染(天知茂)の姿などは、なかなか陰翳豊かに描き出されている。

さて今回の狂四郎は、かつて大阪で鎮圧された大塩平八郎の乱の復讐劇に巻き込まれる。反乱軍残党の愛染は幕藩体制への復讐を誓っている。江戸の町を紅蓮の炎で燃え上がらせてやると豪語する。そして彼は、狂四郎と同じく、円月殺法の使い手だ。黒い着物姿の狂四郎と白い着物姿の愛染は、たがいに一目置きつつ、最後の決戦へとにじり寄っていく。

が、そこに至るまでの書き込みが半端ではない。女芸人の勝美(藤村志保)や油問屋の弥彦屋(香川良介)、用心棒の日下部(遠藤辰雄)ら、記憶に残る脇役が狂四郎と愛染の周辺を惑星のように動くため、映画はけっして単線的な印象を与えない。図形でいうなら、伸び縮みする楕円に近いだろうか。

それにしても、この映画を支えた3人には不思議な因縁がある。天知茂は、三隅研次より10年遅れて生まれ、10年遅れて死んだ。天知と雷蔵が1931年生まれの同い年だったことは周知の事実だ。雷蔵は三隅より6年早く、37歳の若さで世を去った。いま存命ならば、雷蔵79歳。もし作り手側にまわっていたら、まだまだ活躍の期待できる年齢だ。

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眠狂四郎 無頼剣

NHK衛星第2 新年1月7日(金) 13:00~14:20

監督:三隅研次
脚本:伊藤大輔
出演:市川雷蔵天知茂藤村志保、遠藤辰雄、香川良介
1966年日本映画/1時間19分

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「バッド・ルーテナント」

オスカー俳優N・ケイジが本領を発揮 オスカー俳優N・ケイジが本領を発揮 写真:Everett Collection/アフロ [拡大画像]

荒天の映画だ。暴風雨といえば語弊があるが、なにしろ天候が読みづらい。話の先が読めないのではなく、主人公の行動が予測しがたいのだ。悪口ではない。むしろ私には、あっぱれと褒めそやす気分が強い。

バッド・ルーテナント」という題を聞けば、だれしもアベル・フェラーラが1993年に撮った佳作を思い出す。だが、べルナー・ヘルツォークは平然と別の作品を撮り上げた。フェラーラの映画がシェイクスピア的な悲劇に裏打ちされているとしたら、ヘルツォーク版はコーマック・マッカーシーの世界に通じる。そう、この映画には、地獄に向かって突き進みながら、黒い笑いを呼び出さずにはいられない性格が備わっている。

舞台はハリケーン・カトリーナが去ったあとのニューオーリンズだ。映画の冒頭、主人公の刑事テレンス・マクドノー(ニコラス・ケイジ)は、溺死しかけていた拘留中の容疑者を救おうとして腰を痛める。痛み止めの濫用は、やがてコカイン中毒へと進行する。テレンスは薬物常用者や売人からコカインを奪う。あげくは、警察の証拠品保管所に置かれていた薬物までくすねてしまう。

そんなテレンスが麻薬売買にからんだ殺人事件の捜査に当たる。とはいうものの、彼自身が困った存在だ。愛人はヤク中の高級娼婦だし、ノミ屋への借金はかさむ一方だし、組織の殺し屋にも脅迫されているようだ。

まあ、プロットは見ていただけばわかる。「バッド・ルーテナント」の強烈な魅力は筋書以外の描写の面白さにある。いいかえれば、ヘルツォークの描写には妥協がない。悪夢的なまでに不敵で、主人公のアンバランスも意に介さない。というわけで、テレンスは体勢を大きく崩したまま、2時間強の上映時間を走り切る。掌を血まみれにしながら崖をよじ登っていくようなニコラス・ケイジの演技はもとより、彼の手前で悠然とうごめくイグアナの存在にもぜひ注目していただきたい。

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バッド・ルーテナント

WOWOW 1月10日(火) 0:20~2:25

原題:Bad Lieutenant: Port of Call New Orleans
監督:ベルナー・ヘルツォーク
出演:ニコラス・ケイジエバ・メンデスバル・キルマー
2009年アメリカ映画/2時間3分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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