「バード」「ジャッキー・ブラウン」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第10回

2010年10月25日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「バード」

フォレスト・ウィテカーは本作でカンヌ映画祭主演男優賞を受賞 フォレスト・ウィテカーは
本作でカンヌ映画祭主演男優賞を受賞
写真:Album/アフロ [拡大画像]

1940年代後半から50年代前半にかけて、ニューヨークのジャズの首都はマンハッタンの52丁目界隈だった。

チャーリー・パーカーは当時の天才である。愛称は「バード」。スウィングとモダンジャズを橋渡しした人だが、その人生はあまりにも短かった。享年34。それなのに死亡直後、検死官は「推定年齢65歳」と述べている。

イーストウッドは、そんなパーカーに惹かれた。最大の理由は、彼の音楽が素晴らしく美しかったことだ。第2の理由は、彼が孤独な漂流者だったことだ。「史上最高のアルトサックス奏者」と称されながら、パーカーの人生はけっして順調ではなかった。が、不幸と悲惨にずっと押しつぶされつづけていたわけではない。

イーストウッドはそこを見ている。

パーカーは10代のころからドラッグに手を出し、死ぬまで薬物の罠から逃れられなかった。だが彼は凶暴ではなかった。少なくともフォレスト・ウィテカーの演じるパーカーは、大柄で穏やかで、中毒患者特有の切迫感や苛立ちをほとんど感じさせない。

いやむしろ、映画の前半に映し出されたパーカーは、音楽を自在に演奏する喜びに全身を満たされている。場面ごとに取り替えられるネクタイの柄もカラフルだし、伴奏を代えてダビングされているパーカー自身のサックスの音色がなによりも胸を躍らせる。

そんなパーカーの姿を、イーストウッドは陰翳豊かな映像で描き出していく。ライブハウスの室内でも夜の街路でも、影は濃く、照明は暖色系だ。パーカーが好んで着ていた茶系統のスーツも、この色彩設計の一部だろうか。映画を見ているうち、私にはパーカーがおとなしくて繊細な野獣に思えてきた。もしかすると世界は、「野獣」という観念を必要以上に恐れているのかもしれない。

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バード

NHK衛星第2 11月4日(木)13:00~15:42

原題:Bird
監督:クリント・イーストウッド
出演:フォレスト・ウィテカーダイアン・ベノーラ、キース・デイビッド
1988年アメリカ映画/2時間41分

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「ジャッキー・ブラウン」

頭脳と度胸でオデールに挑むジャッキー・ブラウン 頭脳と度胸でオデールに挑むジャッキー・ブラウン 写真:Everett Collection/アフロ [拡大画像]

ジャッキー・ブラウン」は見るたびに印象が変化する。悪い意味ではない。映画の表情が豊かなために、こちらもつい、いろいろな角度から見入ってしまうのだ。

12年ほど前に初めて見たとき、私はこの映画の肺活量の大きさに感嘆した。たとえていうなら、眼の前で水に潜った人間が、ずっと離れた場所で突然浮かび上がる感覚が随所に認められたのだ。話の伏線やトリックだけではない。登場人物や会話のひとつひとつが、侮りがたい「含み資産」を抱えている。

話の基本は騙し合いだ。銃の密売業者オデール(サミュエル・L・ジャクソン)がメキシコのカボ・サン・ルカスに50万ドルの隠し金を持っている。その金をアメリカ国内に運び込むのが中年スチュワーデスのジャッキー・ブラウン(パム・グリア)だ。そこにFBIが絡む。オデールの仲間や愛人たちも話に割り込み、保釈金融業者のマックス(ロバート・フォスター)はジャッキーと思いを寄せ合うようになる。

エルモア・レナード特有のややこしくもつれた原作を、タランティーノは悠然と捌いていく。

なかでも圧巻は、ロサンゼルスの南郊デルアモにある巨大なショッピングモールで金の受け渡しが演じられる場面だろう。ここでのタランティーノは、「時間差攻撃」の変種ともいうべきテクニックを駆使する。人物を細かく出し入れし、水際立った立体像を描き出していくのだ。

面白い技だ、と私は思った。だしぬく側とだしぬかれる側の微妙なずれが、モールの空間を巻きこみつつ、ここでは魔法のように立ち上がっている。そう、「ジャッキー・ブラウン」は織りの細かい映画だ。デルフォニックスやボビー・ウォマックの歌に耳を傾けつつ、私は登場人物たちの知恵くらべにずっと付き合いたい気分になっていた。

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ジャッキー・ブラウン

WOWOW 11月11日(金) 20:20~23:00

原題:Jackie Brown
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
原作:エルモア・レナード
出演:パム・グリアサミュエル・L・ジャクソンロバート・フォスターブリジット・フォンダマイケル・キートンロバート・デ・ニーロ
1997年アメリカ映画/2時間35分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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