コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第131回
2024年5月30日更新
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第77回カンヌ国際映画祭総括 グレタ・ガーウィグ、ショーン・ベイカー、ルーカスにコッポラ…アメリカの新旧世代が並ぶ閉幕式 日本の若手の活躍も印象的

(C)Kuriko SATO
今年も12日間に及ぶ、熱に浮かされたようなカンヌ国際映画祭が幕を閉じた。ここでは、ニュース欄のリポートで書ききれなかった全体像ををふり返って総括してみたい。
グレタ・ガーウィグ率いる審査員メンバーが選んだパルムドールは、アメリカのインディペンデント系監督、ショーン・ベイカーの「Anora」。セックスワーカーの女性とロシアの新興財閥の放蕩息子の出会いをコミカルに描いた本作は、批評家の人気は高かったものの、「まさかパルムドールとは」、という声も聞かれた。ポリティカリー・コレクトで選ぶならイランのモハマド・ラスロフの「The Seed of the Sacred Fig」、下馬評の高さではジャック・オーディアールの「Emilia Pérez」が上だった。だがガーウィグ自身がインディ出身のことを考えれば、同じ畑の先輩(ベイカーはひと回り上の世代)に花を持たせたというところだろう。彼女は授賞の理由を、「エルンスト・ルビッチやハワード・ホークスを彷彿させるクラシックな構造のなかに真実を感じさせた。すべてのパフォーマンスに魅了され、心温まるものを感じた」と語った。

写真:ロイター/アフロ
閉幕式ではベイカーに賞を授与したジョージ・ルーカスに栄誉パルムドールが捧げられ、そのプレゼンテーターには彼の盟友フランシス・フォード・コッポラが登場するなど、期せずしてアメリカの新旧世代が並んだ。
今年のセレクションの傾向で真っ先に浮かぶのが「若返り」である。カンヌと言えば、これまで常連が多く、「毎年あまり代り映えしない顔ぶれ」と評されることが少なくなかった。だが今年はコンペティションに初監督作(アガート・リダンジェの「Wild Diamant」)が一本あった他、若手とベテランがほどよく混ざり、ある視点部門に至っては18本中8本が初監督作だった。
また、以前ならミッドナイト上映やスペシャル・スクリーニングで披露されたようなエンターテインメント系の作品やジャンル映画が、コンペティションに入ったのも特徴だ。たとえば脚本賞に輝いたコラリー・ファルジャの強烈なボディ・ホラー「The Substance」、アクションとロマンスにヴァイオレンスを足して攪拌させたようなジル・ルルーシュの「Beating Hearts」など。そもそもオープニングから、シュールなコメディの監督として知られるカンタン・デュピューの新作「Le Deuxième acte」を持ってくるなど、例年以上にチャレンジングな印象があるのは、未来に向けた世代交代を意識しているからかもしれない。実際今回は、コッポラ(「Megalopolis」)やデビッド・クローネンバーグ(「The Shrouds」)、ポール・シュレーダー(「Oh Canada」)といった大御所より、パヤル・カパディア(グランプリ受賞の「All We Imagine as Light」)やアリ・アッバシ(トランプ前大統領の若き時代を描いた「The Apprentice」)ら、若手の方に勢いが感じられた。

(C) KAZUKO WAKAYAMA
日本勢はコンペティションこそなかったものの、是枝裕和が審査員を務め、彼が注目する気鋭、奥山大史の「ぼくのお日さま」がある視点部門に入選。監督週間部門には山中瑶子の「ナミビアの砂漠」と、久野遥子、山下敦弘のふたりによるアニメーション「化け猫あんずちゃん」が入った。山中監督は、監督週間と批評家週間部門を対象にした国際批評家連盟賞を、女性監督として史上最年少で受賞。「21世紀の日本に生きる登場人物たちのあいだに絶え間なく存在する距離を捉え、それらを通して、現代の感覚の多様性を大胆に探求している」と評された。山中も奥山も今回が商業映画としてのデビュー作となるだけに、日本の新しい世代の活躍を印象付ける機会となった。今後も世界の新世代と肩を並べる活躍を期待したい。(佐藤久理子)
筆者紹介
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佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato