コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第116回
2023年2月24日更新
フランス映画界に活気戻る 日本映画「浅田家!」も3週間で15万人動員のヒット
パンデミックの影響で低迷を続けていたフランス映画界に、活気が戻ってきた。「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」や「バビロン」といったハリウッド大作の公開とともに、フランスの国民的コミック・シリーズ、「アステリックスとオベリックス」を映画化した新作「Asterix et Obelix : L’Empire du milieu」の存在が大きい。初日(ただし何度か開催された一般向け披露試写も含む)の成績は、ここ10年来で最高の46万人の動員を記録し、2週間が過ぎた現時点でほぼ290万人に達した。評価は賛否に分かれているが、誰もが知る人気シリーズの最新作、そしてギョーム・カネ(監督、主演)、ジル・ルルーシュ、マリオン・コティヤール、バンサン・カッセルといった人気俳優や、歌手のアンジェールやサッカー選手のズラタン・イブラヒモビッチなど、脇役からカメオまでさまざまな有名人を登場させた話題性で、社会現象化している。
もっとも、ここで取り上げたいのは本作よりも、中野量太監督の日本映画「浅田家!」(仏題:La Famille Asada)のほうだ。1月25日にフランスで公開になって以来、3週間で15万人の動員を集めるヒットになった。これは地方都市での公開が少ない外国映画にとっては、大健闘と言える。
家族を題材にコンセプチュアルな写真を撮る写真家、浅田政志(二宮和也)の実話をもとにした本作は批評家の受けも良く、「深みと人間性を擁し、ハートを直撃する物語」(ジャーナル・デュ・ディマンシュ紙)、「中野量太監督と彼の素晴らしい俳優たちは、家族の絆と映像についての、ヒューマニストなメッセージを伝えてくれる」(レ・フィッシュ・デュ・シネマ誌)、「記憶と哀悼のテーマについて、またそれを伝える写真の根本的な役割について描いた、個性的で素晴らしい作品。お涙頂戴にはならずに、深い感動に浸らせてくれる」(プレミア誌)といった評価があがっている。
これまでも多彩な日本映画をフランスに紹介してきた配給会社のアートハウス・フィルムズは(最近では「私をくいとめて(仏題はTEMPURA)」「あの子は貴族(ARISTOCRATS)」など)、本作を味のある「フィールグッド・ムービー」として売り出し、地下鉄のホームなどにポスターを張り出すなど、日本映画にしてはかなり宣伝費もかけた印象がある。
もともと昨年12月にパリで開催された第16回キノタヨ現代日本映画祭でプレミアを迎え、最高賞のソレイユ・ドールを受賞し話題になった。そんな下地もあってか、コアな日本映画ファンのみならず、口コミで一般観客に広がっているようだ。とくにパンデミック後、人々が希望に満ちた温かい映画を観たいという気持ちと重なった結果と言えるかもしれない。
このまま快進撃を続けて欲しいものだ。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato