コラム:大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏 - 第6回

2013年10月22日更新

大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏

データから明らかになったアニメの上げ潮状態

内実の大きな変化として、アニメの興収アップが、1番目にせり上がってこよう。ひとつのデータがある。日本動画協会がこのほど刊行した「アニメ産業レポート2013」によると、12年に劇場公開された邦画アニメの累計興収は、約409億円だったという。これは、「千と千尋の神隠し」が公開された01年の約505億円に次いで邦画アニメ年間成績の歴代2位になる。アニメの上げ潮状態が、データから明らかである。

今年は、すでに30億円を超えた邦画アニメ6本の累計が、約320億円前後を記録している。昨年成績を超えるかどうかは、これからの新作アニメや、すでに115億円を超えたメガヒットの「風立ちぬ」が、今後もどこまで数字を伸ばすかにかかっていると言える。細かい分析はしないが、邦画アニメの上げ潮状態は今年も続いているのは間違いない。

邦画アニメに付随して、というより、並行しての洋画のCGアニメの健闘ぶりも、今年は特筆すべきだ。「モンスターズ・ユニバーシティ」が、何と90億円手前の89億5000万円までもってきた。「シュガー・ラッシュ」(30億円)や現在ヒット中の「怪盗グルーのミニオン危機一発」などもあり、ファミリーで楽しめるこれらのアニメは、“洋画の定番”とも言える存在感を示すようになってきたのである。

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ちなみに、さきに記した興収30億円を超えた12本(現時点)のうち、邦画と洋画を合わせたアニメの興収シェアは、何と72.6%を占める。これは、凄いというより、異常さのほうが際立つと言ってさしつかえない。この異常なシェアの高さを踏まえつつ、13年の映画興行は、改めて邦画と洋画のアニメが強かったことを確認しておきたい。これに、邦画実写作品のいささかの地盤沈下や洋画実写作品の相変わらずの低迷ぶりを、ペターンと貼り付けておけば、13年のすべてではないが、ある程度の興行実態が見えてこよう。


戦略的に「場の創出」を提供すべき映画興行

あと2カ月少しで、映画興行には何が起こるか。「人類資金」はどうなるか。「清須会議」は、どれほどのヒットになるか。「陽だまりの彼女」や「潔く柔く きよくやわく」などの“定番的な”ラブストーリーは、どういう成果を見せるか。邦画アニメの期待の新作も待機している。洋画では、一気に正月作品の動向に、注視の目が向こう。

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消費とは、次から次へと、無節操に事態が進展していくことの謂いでもある。それは、獰猛な肉食獣のように、容赦ないほどの速度と欲望の強度をはらみながら、いつの間にか消費の当事者をさえ、その行為の意味がわからないような領域に突き落とす。

映画興行は、映画が消費されていく速度を一定程度に抑えながら、人々が映画とじっくり相対すことができる場を、“戦略的”に提供していくべきだろう。消費速度は、映画を尻目に、“コンテンツ”なるものの上映の場を、大きく確保してきている現状を生み出している。コンテンツが悪いのではない。それをも貪欲に包含した映画興行の側の戦略的な場の創出が、できるかどうかなのである。

筆者紹介

大高宏雄のコラム

大高宏雄(映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員)。
1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。著書は「興行価値―商品としての映画論」(鹿砦社)、「仁義なき映画列伝」(鹿砦社)、「映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年」(愛育社)など多数。

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