コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第6回

2015年12月16日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング
©2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト
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傑作になる確信があったから、この尺で制作をする

大高:高田さんはプロデューサーとして短くしてくださいとお願いしなかったのですか? 通常、プロデューサーの立場からしたら、作品を見る前に「5時間? 切れ!切れ!」だと思うんですよ。

高田:ぼくはイエスと言い続けることが仕事だと思っていたので、ただ頷くだけです。幸か不幸か、自分は映画業界の人間ではありませんでしたので、プロデューサーが尺を短くしろって言えば、短くなるものだと知らなくて(笑)。KIITO主催でアーティスト・イン・レジデンスの成果発表として編集ラッシュを一般公開の形でやって頂いたことがあるのですが、その時にすでに5時間30分。ただ、切れと自分が言えば短くなることを知っていたとしても、指示は出さなかったと思います。濱口監督の映画がおもしろくなることは確信していました。

濱口:高田さんが切れ、と言ったら切ってましたね(笑)。ただ時間をかけるということは、お金がかかるということ。制作資金がショートしそうになりました。クラウドファンディングを行ったのもそれが理由です。自分は、いままで制作予算を超過することってほとんどなかったんですよ。予算枠のなかで最大限のクオリティを出すことを心がけていました。けれども、今回ワークショップをやってきて、もう一化けする予感がしたんです。もう少し予算があれば、絶対もっといいものができるという予感。しかし、それにはお金がかかるし、これ以上NEOPAさんに資金のお願いをするとなると、これまでの信頼関係が壊れてしまう。だから別の方法を模索していた。そこでクラウドファンディングのことを知り、やってみようと思ったんです。自分と同じような規模で映画を作っている人が数百万円の調達に成功していたので、自分もできそうな気がしていたんです。

大高:クラウドファンディングを行うにあたって躊躇することなどありましたか?

濱口 集まらなかったらどうしようって強く思っていました。完成していない映画にお金を出す人がいるのかなっていうことは、不安で仕方がありませんでしたね。

高田:僕は逆に、最初にお金を出したから、みんなも出してくれるのではないかと期待を持っていました。たまたま自分は濱口監督との距離が近かったから早く資金を提供しただけで、世の中の人が僕と同じ距離感で濱口監督と会っていたら、みんな彼に資金を提供したと思うんです。だから、そんなに危機感はありませんでした。でも実際目標金額以上の資金が集まった時はうれしかったです。

©2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト
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大高:それにしても、一ヶ月かからずに目標の300万円を達成していましたね。しかも目標額を大幅に上回る465万円まで資金を調達できた。非常に盛り上がりましたね。

濱口 この映画の未来における価値を信じてくれた、ということだと思うんですが、それは同時にいままで自分がやってきたことになにかしら価値を感じてくれている方が多かったということでもあって、本当に感謝しています。初日からこんなに集まってくれた。神戸の方、東京の方、東北の方などお世話になった方はもちろんですが、半分以上は知らない方が参加してくれていた。とても不思議な感覚でした。きっと価値のあるものができると信じてくれている方。自分がその時に投じることができるお金を投じてくれた。だからとても嬉しくもあり、恐ろしくも感じました。もともと失敗は許されないんですが(笑)、その許されなさの度合が飛躍的に高まりましたから。その「応援してくれた人にちゃんと作品を届けなくては」というプレッシャーと、クラウドファンディングで応援頂いた資金のおかげで無事に映画が制作できました。MotionGalleryでのクラウドファンディングがなかったら、映画は完成していなかったのではないかと感じています。
 強いてクラウドファンディングを行った中で失敗したと思ったところは、特典を身の丈を超えて豪華にし過ぎてしまったかもしれないなと感じている所です。それは単純に、特典もなしにこの映画に出資してくれる人がいるという事態をファンディング前はまったく想像できなかったからです。端的に自信がなかった。多くの特典は製作中に副産物的に作るつもりでしたが、結局撮影は過酷でそのようにはならず、特典制作のために改めて予算と時間を費やしているのが現在です。予算を含めて自分の身の丈に合わせることの大事さは痛感しています。次にやるとすれば、特典はもっと自分の身の丈にシビアに合わせるべきだ、と考えています。できあがる作品そのものの価値を自分自身が信じることがとても大事だと思いました。特典云々ではなく、これからできあがる映画の制作者となることに意義を感じてもらえるよう、話もしつつ、支援してもらうことが大切だと思います。

©2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト
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大高:そうですね。仰る様に、まずは製作者のビジョンや作品そのものに対して賛同頂ける様なコミュニケーションを通じてファンから応援を集める事がクラウドファンディングの正しい形でもあり、コレクターの方々と幸せな関係を築く方法だと感じています。今回、MotionGalleryを通じてこの様な素晴らしい作品を制作する事をサポートできて嬉しく思っているのですが、お話を伺っているとやはり高田さんのような、作家性やクラウドファンディングに対して理解あるプロデューサーや企業の存在が非常に大きいなと感じました。その様なプロデューサーや企業をもっともっと増やしていくには、映画を制作する事の価値を、出資した企業にしっかりフィードバックされる様な結果が求められていくのかなとも思ってもいるのですが、その点、高田さんは如何お考えでしょうか?

高田:その点に関して言えば、「映画を制作する事の価値」を金銭的なものだけに求めないという割り切りの共通認識がとても重要だと思います。事業としてやると、かならず黒字にしなくてはならない、と思うから冒険ができない。だから結果的に、事業的にも作品的にも失敗するんですよね。金銭的な意味で言えば制作している期間だけなんとかお金がまわせれば良くて、映画を作る事で得られる金銭的ではない様々な価値もあとから沢山付いてくると思います。

大高:映画「ハッピーアワー」に関しては、すでに国際的に評価という結果は出ていますね。確かに、興行が始まる前の現時点でも既に大きな価値が出ていますね。

高田:金銭的な面だけで考えれば、損をしなければいい。赤字にならなければいいって思うんです。そういうことを会社全体でコミットしていければいいんですよね。

濱口:金銭には換算できないような価値を会社につくって考えてもらえるとすごくありがたいですね。そういう価値基準自体が、映画製作の場だけでなく、社会全体にあってくれたらよいなと思います。

大高:確かにそうですね。そこに意思があれば、赤字さえ出なければ映画が作り続けられますし、その様に多種多様な作品がいっぱい生れる事で映画の裾野、映画が社会に当たれる影響が広がっていきますよね。MotionGalleryを始めた理由も正にそこにあります。とても嬉しいですね。

©2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト
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これからの目標

大高:最後に、「ハッピーアワー」の劇場公開に際してメッセージをお願いします。

濱口:「ハッピーアワー」は皆さんの生活の中にあるドラマ、それが浮き上がる様を描いています。皆さんが映画を見て、自分の暮らしの中にあるドラマを見つけ出しやすくなったら、こんなに嬉しいことはありません。是非、ご覧下さい。

高田:一人でも多くの方にご覧いただけたらうれしく思います。
そして、この映画について語り合える人が増えることを願っています。

©2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト
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■「ハッピーアワー」
監督:濱口竜介
脚本:はたのこうぼう(濱口竜介、野原位、高橋知由)
キャスト:田中幸恵、菊地葉月、三原麻衣子、川村りら
12月12日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!
http://hh.fictive.jp/

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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