コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第19回
2020年4月20日更新
映画「ドロステのはてで僕ら」インタビュー
劇団でありながら映画や映像作品にも注力する人気劇団「ヨーロッパ企画」が、“演劇の街”下北沢の映画館「トリウッド」(配給)と「下北沢映画祭」(宣伝)とタッグを組み初めて挑んだオリジナル長編映画「ドロステのはてで僕ら」。劇団内外の作品も精力的に手掛ける代表の上田誠さんが原案・脚本を手掛け、彼らのホームグラウンド京都・二条を舞台に劇団総出でつくりあげた本作は、Motion Galleryにて上映劇場の拡大、そして国内外の映画祭出品に向けたクラウドファンディングを行い、掲載開始からわずか数日で目標金額を達成する支援をいただきました。
人気劇団がはじめて映画をつくるということ、綿密なプロットを非常にタイトなスケジュールで撮影したというその裏側などを、ヨーロッパ企画から主演の土佐和成さん、山口淳太監督、上田誠さん、そしてヨーロッパ企画とは初コラボとなるヒロイン役の朝倉あきさんにお話を聞きました。
実家から5分くらいのご近所さん
大高:一番最初にびっくりしたのは、ロケーションがすごいなと思ったんです。カフェがあって、その上が住めるところで、ヤクザの事務所のように見える場所もある。物語の一連の流れが作れる建物をどうやって見つけたんだろう、と思いました。
土佐:あの場所を見つけてから逆算で書いたの?
上田:そうです。裏の散髪屋さんもね。
大高:すごく良い場所ですよね。ありそうでない。元々繋がりのある場所ですか?
上田:僕の地元なんです。実家から歩いて5分くらいの、ご近所さんのお店とお隣の散髪屋さんと。顔見知りでもあって、応援してくださっているんです。
朝倉:それがもうすごいですよね!
土佐:台本読んで、ロケーションばっちりや!ってなったね。
朝倉:場所をこんな風に最大限活かすのは、なかなかできることじゃないと思います。
上田:むちゃくちゃ嬉しいこと言ってくれる。
大高:今回ヨーロッパ企画としてはじめての長編映画を、舞台先行ではなく映画先行でつくろうと思ったきっかけはなんですか?
山口:毎年、トリウッドさんと下北沢映画祭さんと一緒にヨーロッパ企画の作品を上映するイベントをやっていて、それが3年目となり、次は一緒に長編映画一緒につくりませんか、とお声がけいただいたのがきっかけです。上田さんの脚本でつくりたいという考えを元に、原案でもある上田さんの「ハウリング」という11分の短編を長編にしようというプロジェクトが今回の「ドロステのはてに僕ら」です。
上田:僕らは劇団なんですけど、映画もつくる集団なんですよ。
大高:みんな監督をやられている。
上田:そうです。そういうチームで、かつ劇団があるから、コンスタントに映像をつくれる環境があります。普通は映画をつくろうってなるとわざわざ人を集めたりでなんやかんや大変ですけど、僕らには劇団という母体があるので、例えば5分間の映画をつくるイベントをやろうってなったら、近くにいる役者さん呼んでフットワーク軽くできるのが僕らの強みです。そんな風にいろんな個性溢れる(短編)映画がある中で、ちょっと珍しい一本だなっていうのを、劇団総出で長編にしてみようとなったんです。
大高:朝倉さんをキャスティングした経緯は?
山口:僕と今回の宣伝プロデューサーの平井さんが、摺り合わせてなかったけどお互いの第一希望だったんです。
大高:すごい。
山口:ヨーロッパ企画に外部からヒロインの女優さんをお呼びして、群像に関わってもらうのって結構なことだと思っていて。劇団は20年以上やっていて、芝居は阿吽の呼吸でできる関係性ですけど、その渦の中に、しかも初めて入ってもらうのはとても大変なことをお願いするな、と。かつ、お客さんが観た時に良いアンサンブルになっていると思ってもらえる女優さんは誰なんだろうと考えた時に、朝倉さんがいいな、と思ったのが最初でしたね。メグミは巻き込まれ型の被害者みたいな役なので(笑)、朝倉さんが巻き込まれていたら面白そうだな、この人しかいないな、と思って、正面突破で電話でオファーさせてもらいました。
大高:オファーをもらって、脚本を読んでみてどうでしたか?
朝倉:純粋に面白いと思いました。これは気持ちの部分でもとても大事につくられている作品だと思ったので、読み終わった後にすごく胸がほっとして、ほっこりしたんです。そういう作品に自分も出たいなと思っていたので、運命のようだと思いました。撮影は絶対大変だとは思いましたし、自分ができるか不安もものすごくありましたけど、それを上回るワクワクが勝っちゃいましたね。
ヨーロッパ企画でしかできない映画
大高:映画を拝見して、通常の現場より大変な部分が多かったのではないかと思いました。擬似ではなく、ワンシーンで撮られたんですか?
上田:実際には7カットくらいの長回しです。大変でした。
朝倉:脚本を読んだ時もそうでしたし、実際に(撮影に)入ってみるとやっぱり大変でしたね。でもそれも覚悟の上、というみなさんの意気込みを感じていたので、私も同じくらいの気持ちで挑みました。
大高:画の中で撮るものもありますよね。
上田:合成を使ってないんで、素材映像を撮るにも7重8重のミルフィーユで、何重にも撮って撮って重ねて重ねて、一個前のレイヤーの色調整を間違えてたんでもう一回撮り直しとかがあったり。その何重もの大変さをやった後の本編撮影が、それもまた長回し。本編撮影は楽しいだけですねって話してたのが、全然そんなことないなって(笑)。
朝倉:想像以上に信じられないくらい地道な作業がたくさん詰まっています。
大高:劇団だからできたという印象はすごく感じました。
土佐:(プロジェクトページに載せる)コメントをくださいって言われた時に「劇団でしかできない映画が撮れたと思います」って書いちゃったんですけど、あとから考えたら、いやそんなことないかなって思い始めて、だから撤回したいですね。
一同:(笑)
朝倉:そういうことを言うんですよ!ほんとに!
上田:そう、みんなね、そんなたいしたことないんですよって言うんだよね。
朝倉:簡単に言うから。私はそれを止める係なんです!
一同:(笑)
土佐:昔から一緒にやってもらっている音響スタッフに、これって普通の映画の現場で撮られへんかなあって聞いたら、普通の現場やったらたぶんもっと前から準備して、予算とスケジュールがあればパイロット版をつくってから本番に向かうと思います、と言われましたね。ただ、僕らこれを7日間くらい?10日間?
山口:稽古含めて10日間。
土佐:3日稽古の、3日素材、で、4日本編。
山口:本編で出てくる映像に関しては(撮影に)4日間ですね。
土佐:このなかでやると考えたら、劇団でしかできなかったでしょうし、ヨーロッパ企画でしかできなかった。それと、ヨーロッパ企画がこんだけ出てるっていうのもヨーロッパ企画でしかできない映画かなって思います。
上田:劇団でしかできないようにつくったんですよ。舞台は何十回とやってるのでそれなりに重装備ができるようになってきてるんですけど、長編映画をつくるのは初めてで、予算や時間が潤沢にある状況じゃない、本当にスタートアップのような企画。その中で突出するために、劇団で使えるリソースや場所や人脈、培ってきたいろんなものをみんなが総動員して、これは劇団じゃなかったらできないというものにする、っていう思いがありました。
土佐:じゃあいいね、劇団でしかできない映画って言って。
上田:そりゃもう絶対そうですよ(笑)。
朝倉:長回しでのみなさんのお芝居に寒気が立ちました。あのリハーサル期間で、あのナチュラルなお芝居が一発で、しかもほとんど最初のカットで完成していたので、それを見た瞬間に私はずーっと現場で、ドッキドキしてました。ほんとに、この芝居を私が崩しちゃいけないって。極限な状態で、あの芝居ですから。
上田:(撮影は)日没から日の出まででやりましたね。
土佐:当初、撮影の段取りでいうと、結構バラバラだったんです。朝倉さんは最後のシーンを最初に撮るスケジュールになってたんですけど、運良く順撮りができたんですよね。それもすごく幸運やったなって。
山口:何より撮れへんのが怖いので、撮れるようにぎゅうぎゅうに組んどいて、結果は順撮りになるかもかなーって。撮れるやつからどんどんっていう。
土佐:毎日、もう無理やって思ってましたし、無理やったらどうするんやろうってみんなで喋ってましたね。
大高:撮影でのその感覚は、演劇で培ったものですか?
上田:まあ、口に入るものじゃないんでね。別にできなかったとて誰かが死ぬわけでもないんで(笑)。
一同:(笑)
上田:本当に、そう思わないとやっていけないところがありますよね。不健康であってもしょうがないのでね。だから健康的にやるってところさえみんな守っておけば、というのがあります。劇団やってて命削るような期間もあって、これはちょっと続けるには不健康かも、っていうのが僕にはあったしいろんなものを壊してまでやることではないから。それは劇団の中でも、20年もやっているとみんなあるんじゃないかな。
大高:それは大きいかもしれないですね。サステイナブルに劇団をずっと運営されてくということをベースでやっていますよね。映画だと毎回チームで集まるから。
土佐:最悪、朝倉さんが出演されているところさえ撮っておけば、あとはヨーロッパ企画メンバーのとこは後にでも回せるっていうね。
上田:とはいえ、今回ばかりは久々に高校野球みたいでしたね。
土佐:高校野球みたいだったね。
上田:なるべくそれはしないでおこうっていうのが暗黙であって、一回限りの現場だったら明日肩壊れても良いっていう高校野球みたいなのはあるけど、そうじゃない中でやんなきゃいけないし、みんなレギュラー番組も持っていて、撮影の合間に寝ずに別の番組も編集してましたね。日常も回しながらやっている、ってうのは、サステイナブルというのがまさにそうかもしれないですけど、その割にはみんな懸けてたと思いますよ。久しぶりになんかね、一丸と。
土佐:やっぱり興奮してたなっていうのは思いますね。劇団としては円熟とした20年が経ったけど、はじめてみんなでひとつの映像作品をつくるっていうところに僕は興奮してたし、撮れてるだけで満足していた部分はあるかもね。久しぶりにこの感じ。青春感が、恥ずかしながらあったかもしれないですね。