コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第18回
2020年3月6日更新
聖域とは何か。壷井濯監督と五味未知子さんに聞いた『サクリファイス』で描かれた震災後について
2020年3月6日よりアップリンク吉祥寺を皮切りに全国順次公開の壷井濯監督初長編作品「サクリファイス」。「東日本大震災をテーマにした脚本を書く」という大学の授業の課題からスタートし、震災を予知したかつての少女、孤独な学生の死、猫殺し、戦争に憧れ軍服を着込む学生団体をキーワードに3.11後の若者たちを取り巻く「死」の物語を重層的に描いた本作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にて国内コンペティション優秀作品賞を受賞しています。
本作が映画初出演であり、物語の鍵となる少女・翠を演じた五味未知子さんのキャスティングの経緯や、壷井監督が物語を描くことへの姿勢と若者たちへの眼差し、そしてMotion Galleryにて行ったクラウドファンディングを通して確信した次の時代のコミュニケーションなどについて、壷井濯監督と五味未知子さんにお話をお聞きしました。
***自分の深部を通して3.11にコミットする***
大高:今年で震災から9年です。撮影されたのは?
壷井:2年ちょっと前くらいです。2017年末から2018年。
大高:震災から当時6年くらい経った上で撮ろうと思った理由は何だったのでしょうか?
壷井:最初は、大学の篠崎誠さんのゼミの課題で3.11がテーマになったことがきっかけです。篠崎さんは既に東日本大震災をテーマに3作連続で撮られた方で、ご自身の気持ちもあって学生にそれを投げたんだと思います。そこからスタートした企画です。全てのきっかけは大学の授業の課題だったから、それに全力でこたえてきた、と言ってきましたけど、今思えば、それはある種の言い訳で、僕はたぶんこの映画をずっと作りたかったんだなって。でもそれはそう簡単に出していいものじゃないと分かっていて、きっかけをずっと待っていたんだと思っています。
大高:東日本大震災では実際にどういった体験をされましたか?
壷井:震災の時は僕は家にいました。ちょうど、「サクリファイス」に通じる、9.11や秋葉原通り魔事件に関係があるような映画をつくっていた時期で、家でその編集作業をしていたら地震があって、ハードディスクを守ることが精一杯でした。その直後からテレビで津波の映像が流れて、茫然とするしかないというか、こんなことが起こりうるのか、というような気持ちでいました。
五味:私は当時、小学6年生で12歳。ちょうど学校から帰ろうかなあ、という時に揺れが起こりました。体感したことはないし、何が起きたかわかりませんでした。自宅に帰ってテレビでいろんなニュースを見たけどやっぱりその時は自分にこんなことが起こってるという実感がなくて、ただ、何が起こるのかわからない怖さがありました。
大高:監督は震災をどういう風に捉えていますか?
壷井:2011年の震災の後に体調を大きく崩して、それが大学に入り直すきっかけにもなったんですけど、何ヶ月も家から一歩も出られないような状態になりました。その時の、震災というものに対する「絆」「頑張ろう日本」「繋がり」という言葉が、個人的な体調もあってめちゃめちゃ辛かった。言葉のひとつひとつが震災というものをなんとなく大きな良い話として終わらせようとしている感覚がありました。何万人が死んで、何千軒の家が流されて、あれから何年経って、でもいまみんな復興に向かって頑張っていて、ということが震災を数値に還元しているようで、それには今も疑問を抱き続けていて、そういうものと正反対の切り口からやろうと思いました。大きな悲しみみたいなものにコミットしようとする時に、自分というものを通さずに、いきなりそれにコミットしてしまうと、結局、絆だとか頑張ろうという言葉しか出てこない。そうではなくてまずは、もちろん批判もあるだろうけど、自分の中の深い部分に降りて行って、そこにある醜いもの・孤独・悲しみを通して震災にコミットしたいし、そうじゃないと絶対嘘になるっていうのはありました。
大高:篠崎さんと話していた中でどういった会話や評価がありましたか?
壷井:篠崎さんとはいっぱい話したわけじゃないですけど、たぶん同じような感覚を共有している人たちはものづくりをしている人たちのなかには結構いて、篠崎さんはそういう近い感覚を持っている方の一人なんじゃないかなと。特別なにか震災についてこうだよね、という話はしていないですね。
大高:どう捉えているかは、言葉にせずともお互い合致されたんですね。
***“演じたというより、滲み出た”役柄に心が近づいた瞬間***
大高:五味さんは、震災についての作品で演じられることについて最初はどういうお気持ちでしたか?
五味:私はオーディションではなくて、監督に直接お会いして脚本をいただきました。
震災という実際に起こったことをテーマにしているということで、とても考えて作品に向き合わなければいけないなという気持ちは脚本を拝見した時あり、自分に翠ちゃんが務まるのか沢山悩みました。
大高:監督が五味さんにオファーされた経緯は?
壷井:(五味さんが演じた)翠は本当に重要な役だったので、この役の人が決まらない限り何も動けないなと思っていました。でもとにかく見つからなくて、普段はあまり目を凝らして見ないインターネット上でも必死に探していたなかで、ミスiDのオーディションで五味さんが歌っているYouTube動画を見たんです。その姿が、緊張もあり怯えもある中で同時にめちゃくちゃ意思の強さも感じるもので、もうこの人だなと思ってオファーに行きました。実際に会ってみて、やっぱりこの人だって。無理やりと言うか(笑)。
大高:無理やり引き摺り込んだ、映画の世界に(笑)。
壷井:脚本を渡して、まずは読んでみてください、少し考えてみてください、という話をしました。
大高:演技は初めてでしたか?
五味:ミュージックビデオや短い映像はありましたが、映画にちゃんと出るのは初めてだったのですごく緊張しました。
大高:監督は演出されてどうでしたか?
壷井:お芝居をやったことないというのは動画を見ていて分かりました。翠の役は、小慣れている演技をされるのは違うと思っていたので、僕は逆に絶対にハマるんじゃないかと思っていたんです。とはいえ、いきなりカメラの前で置き去りにされるのは大変だろうな、というのは分かっていたので、キャストの中で唯一リハーサルを一緒にやりました。10回くらい。本読みから始めて、撮影の直前になって始めて、実は映画にはカット割りというものあるんです、みたいな話をしました。
大高:演じて一番大変だったのは?
五味:廃墟でのシーンですね。
大高:あれは大変そうですね。
五味:大変という一言では言い表せないことがいっぱいあって。
壷井:限界突破(笑)。
五味:限界突破(笑)。あのシーンを撮っているときは本当に、もう2度と映画には出ないって思ってました(笑)。でも出来上がったら、映画ってやっぱりいいなって。皆さん大変だったんですけど、廃墟のシーンが私の中で一番のクライマックスだったので、とにかく必死でしたし、そういう大変な体験をしたからこそ、自分でも精一杯を出せたと思います。演技を学んできた人間ではないので、演じたというより、滲み出たというか、翠ちゃんに心が近づけたかな、というシーンがいっぱいあります。でも、寒くて、みんな必死でしたよね(笑)。
壷井:ごめんなさい(笑)。五味さんは初めてだから誰かフォローに入れればよかったんですけど、それも一人で乗り越えてくれました。本当に素晴らしいなって、勇気を持って乗り越えたんだなって。