コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第17回
2019年11月15日更新
■作品に対して“責任”を持つということ
大高:クラウドファンディングに臨まれたのは「退屈な日々にさようならを」以来2回目になります。クラウドファンディングで映画を作ることについて、どう思われていますか。
今泉:もともとクラウドファンディングには批判的だったんですよ。
大高:一時期ブームになり、みんながやっているから惰性になってしまう、というお考えでしたよね。
今泉:今思うと、クラウドファンディングをやることで、作品が小さく見えることを危惧していたのかもしれないです。どれだけ低予算の映画でも、自分たちの力で頑張っているのか、それとも誰かに助けてもらっている感じがするのか。でもクラウドファンディングをやらないと生まれなかった作品があるなら、作品が生まれる事は大きいし、それが誰かの心を豊かにするならマイナスなことではないと今では思っています。映画を作る人間としては、クラウドファンディングをやる以上、支援してくれた人たちの思いも作品に投影したいと思っています。
大高:若葉さんは出演者の立場から見て、クラウドファンディングに対してどう感じていらっしゃいますか。
若葉:“クラウドファンディング”って、名前勝ちみたいなところありません? これが“映画製作募金”だったら絶対お金が集まらないと思うんです。
今泉:なるほど。
若葉:だけど「クラウドファンディング」と命名したことで、普及していったんじゃないかなと。
大高:確かに横文字にすると、なんとなく新しい感じがしますよね。やっていることは、おっしゃる通り“募金”で正直新しくはないんですが。
若葉:役者として思うのは、せっかく資金を集めるなら、役者のギャランティに関しても視野に入れると、より広がりが出ると思っています。
今泉:確かに今のクラウドファンディングは、劇場公開までの配給・宣伝費のみへの支援が多いですよね。今、若葉さんは役者の立場として言っていますけど、要は作品に対する“責任”だと思うんです。クラウドファンディングの話から離れますが、世間にはあまり知られていないけど、興行収入というものは監督の収支には関係がなくて。どれだけヒットしようが失敗しようが、最初に決まった金額で仕事をしているから、極端な話、映画を作り終わったら宣伝に協力しなくてもいいわけで。でもそれって、切ないですよね。みんながみんな、最後まで作品に責任を持てたらいいのにな、と思います。
大高:みんながひとつの作品に対して“自分ごと”として動けるかが大事ですよね。
今泉:はい。そういう意識が働くのは、僕が自主映画出身だからかもしれないです。クラウドファンディングが役者、スタッフにも還元されて、次の作品に向かえるようなモデルケースができるといいなと。
大高:確かに、監督たちが今後も作り続けられる循環が生まれるといいですね。
今泉:そこはぜひ、大高さんにシステムを作っていただいて(笑)。
■映画が終わっても、主人公たちの人生は続く
大高:最後になりますが、どういう方々に「街の上で」を観ていただきたいですか。
今泉:そうだなぁ……そもそもこれ、誰に見せる映画なんですかね(笑)。
(一同爆笑)
今泉:「サッドティー」でもそうでしたが、言ってはいけない本音をポロポロ言っちゃう人たちを描くのが好きなんです。みんなが普段言えずに溜め込んでいることを描くことで「言ってもらえてよかった!」と思ってもらいたい。「街の上で」の青も、そうした境界線にいるキャラクター。それに、青という人は、元カノの雪をずっと想いながら、他の女性ともウロウロしているじゃないですか。すごくイビツなんですよね。
若葉:確かに! あのライブハウスで、女性に見とれるシーン、ちょっと恋愛が始まりそうな感じがありましたもんね。
今泉:「え?どういうこと?」って思うよね(笑)。そんなブレてる感じも含めて、青の魅力。もともと僕は “ダメな自分を肯定するため”に映画を作っていたんだと思うんです。でも「愛がなんだ」の大ヒットで気づけたことがあって。あれって、ダメな女性を主人公にしたことで、観る人に「だめなのは自分だけじゃないんだ」と感じてもらえたみたいなんです。つまり、自分の映画が誰かの心を軽くしていた。ダメな人に惹かれて、そういう人を描き続けてきたんですが、そのことが、映画を観る人の中にある弱さを肯定していた、ってことに気づけたんです。
若葉:僕も仲原を受け入れてもらえたのは嬉しかった。弱い人やだめな人に対して、僕が普段抱いていることと、今泉さんが切り取ってくれたことが近かったのも嬉しくて。今泉さんと出会えたことは、僕にとってめちゃくちゃ大きいです。
今泉:これまで自分は「物語がどう始まって、どう終わるか」が大事だと思ってきました。ファーストシーンとラストシーンも。でも、「アイネクライネナハトムジーク」の感想で、「『どう終わるんだろう?』って思いながら観る映画はたくさんあるけど、『このまま終わってほしくない』と思いながら観ていたのは初めて」というコメントがあって。登場人物をずっと見ていたいと思ってもらえたということは、人物をきちんと描けていたのかもしれないと感じて、すごく嬉しかったんですね。「街の上で」も、「どのシーンで終わってもいいな」と思ったし、何かが解決しているわけではなく、その後も青たちの人生は続いていくラストになっています。また、自分が目指している、お芝居なのかわからない“生っぽい”瞬間も捉えることができた。それだけでも「街の上で」を作って良かったし、勇気にもなりました。「これは絶対、自分の映画にしかない」という時間が作れた気がしています。
若葉:僕も青に関しては、絶対自分じゃないと演じられなかったという自信がちょっとあるんです。多分ほんとにだめだから、青は(笑)。さっきも話しましたが、世間や社会に対して、ちょっとでも敵意みたいなものが表に出てしまったら、青ではなくなってしまう。「型から外れていくぞ!」みたいに生きられない人にとって、「街の上で」がちょっとした“お守り”みたいな作品になると嬉しいですね。
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映画「街の上で」 2020年劇場公開予定
出演:若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、村上由規乃、遠藤雄斗、上のしおり、カレン、柴崎佳佑、マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)、左近洋一郎(ルノアール兄弟)、小竹原晋、廣瀬祐樹、芹澤興人、春原愛良、未羽、前原瑞樹、タカハシシンノスケ、倉悠貴、岡田和也、中尾有伽、五頭岳夫、渡辺紘文/成田凌(友情出演)
監督:今泉力哉 脚本:今泉力哉 大橋裕之
撮影:岩永洋 録音:根本飛鳥 美術:中村哲太郎 衣裳:小宮山芽以 ヘアメイク:寺沢ルミ 助監督:滝野弘仁 平波亘 スチール:木村和平 川面健吾 音楽:入江陽 主題歌:ラッキーオールドサン プロデューサー:髭野純 諸田創 ラインプロデューサー:鈴木徳至 制作プロダクション:コギトワークス 製作:『街の上で』フィルムパートナーズ
2019/日本/カラー/130分/ヨーロピアン・ビスタ/モノラル
公式Twitter
https://twitter.com/machinouede