コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第14回

2018年7月19日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング
瀬々監督
瀬々監督

■たくさんの人の熱意を引き受けてこの映画は完成した

大高: 30年間企画を温めてて今撮るというのは、単にお金が集まりそうだということだけではなく、世の中の空気として今撮るべきだろうと強く思ったからですか?

瀬々: そうですね。関東大震災が起こったあとに、社会主義者の弾圧と朝鮮人虐殺が起こり、第二次世界大戦と日中戦争という戦争の時代に突入していきました。そういう時代の雰囲気が、今の雰囲気に似てると思ったんです。東日本大震災の後に、特定秘密保護法や共謀罪改めテロ等準備罪などの法制がどんどん制定されていき、僕たちの自由が失われていくというのが状況として似ています。そういった関連性のある中で『菊とギロチン』を、決して時代劇としてではなく、現代に通じるもの、現代の人たちが見ても同時代のものとして感じる映画になると思って作りました。

大高: 「空族」の相澤虎之助さんが脚本に入っているのは、どういう経緯からですか?相澤さんが加わった影響は、映画に出ているのでしょうか?

瀬々: 空族の相澤くんは『サウダージ』や『バンコクナイツ』の富田克也くんの相棒で、脚本を書いている方です。彼は社会的な運動にすごく興味を持っているといて、この映画の時代設定である大正時代は、日本だけの世界観ではなかなか収まらないところがある。もっと広い、アジア的な世界観の中で日本のことを考える必要があるんですね。空族の相澤くんには汎アジア的な視点があり、特に彼の場合は南方志向もあります。どこか南のほうに楽園があるというようなことが、彼の映画の中にすごく出てくる。それが『菊とギロチン』で描こうとしているものに近い気がしました。相澤くんが参加してくれたことで、すごくインターナショナルで無国籍的な、そして雑多なものが加わりました。彼にはすごく感謝しています。

本田: それは作品を観て痛切に思いました。映画の設定は大正時代なんだけど、そこで語られていることは完全に今の僕たちが生きている時代で、地続きのものだと感じました。しかし時代劇を作るのではないと精神的にそうは言っても、実際に映画を撮る場合は美術、衣装、大道具、セットは全部大正時代ものにしないとだめですよね?そうすると単純に制作費は増えていきますけど、自主制作としてそのハードルを突破するモチベーションはどう維持していましたか?

瀬々: それは結果的には、多くの人をその場に巻き込んでいくことが出来たからこそだと思います。『菊とギロチン』は、出資者を募ると同時に出演者募集もしていました。出演希望はすごく多くて、700人くらいいました。その時はまだ、出資者はほとんどいなかったんですけど(笑)

大高: 多いですね!今日のテアトルの初日舞台挨拶は、30人が登壇しましたよね。テアトルで史上最多人数と聞きました。

瀬々: 出演者に関しては、僕が会ったことのある人と有名な人以外は全員会うと決めていました。1週間で500人くらいに会ってオーディションをして、その中からキャストを決めていきました。若い俳優さんたちっていうのは、すごくやる気があって、何かに飢えている。自分のなにかを探している人たちがいっぱいいるんですね。そういう人たちの熱意というのは、有象無象にたくさんあって、そういった熱意がこの映画の力になっていると思います。あとこの映画は京都と滋賀で撮影したんですけど、京都松竹撮影所の衣装や装飾の人もスタッフとして入っています。そういう人たちは普段、時代劇のルーティーンの仕事が多かったりもあって、もこういう仕事が、目新しく、すごくおもしろがってやってくれました。「なにかやろうとしているんだな」と、強く同調してくれて、色々なアイディアを出してくれるし、すごく創造的にやってくれます。世の中には、なにかをしたいと思っている人たちがいっぱいいます。色んな人たちの熱意を引き受けて、この映画は出来たような気がします。

本田: 本当に、みんなから集まったエネルギーが作品の中で凝縮されていますよね。僕は、こんな熱い映画は今まで観たことがないです。今の若い映画監督なんかは、制作費の問題とかもあって、大きなテーマの話を描きにくい状況にあると思います。そんな人たちが『菊とギロチン』を観ると、ハードルを突破できる希望になると思います。

司会: 監督が誰よりも一番アナキストなんじゃないですか?

瀬々: いや、意外と僕は気弱なんで(笑)決してアナキストではないです。

本田監督、瀬々監督、筆者
本田監督、瀬々監督、筆者

■映画作りには、反骨精神から生まれる初期衝動がすごく大事

大高: 大きな商業映画をコンスタントに撮れている監督って、あまりこういったことをやらないですよね。少し失礼な言い方をすると、安住していることが多い。でも瀬々監督は常にチャレンジをしていて、商業映画とは違うラインで映画を撮り続けている。それはとてもすごいと思います。そのインディペンデント魂がどこからくるのか興味があります。

瀬々: みんな一番最初に映画を作りたいと思った時って、誰かに頼まれる訳でもなく、自分で勝手に「こういう映画を作りたい」と思って始めるはずなんですよね。その心が一番大切だし、常にそういう心を持っていたいと思っています。僕が映画に憧れを抱いた高校生当時は、若い監督たちが日本映画を変えようとしていて、僕もそういう自由や時代が素晴らしいと思っていました。それを今も大切にしていたいですね。

大高: 商業映画を撮るときも、言われ仕事としてやっているのではなく、インディーズ映画のような心意気なんですか?

瀬々: 商業映画でも、若い俳優さんと一緒に仕事をするということはとても楽しいんですよ。最近だと瑛太さんや岡田将生くん。そういう人たちと一緒に仕事をすることはすごく楽しい。若い俳優さんというのは、なにか新しいことをものすごくやりたがっている。ピンク映画で新しいものを作ろうとしていた当時の僕らの意識と、同じものを感じることがよくあります。一時期は俳優さんの中でメジャーな映画とマイナーな映画を区別しているところがあったけど、最近の俳優さんたちはあまり気にしていないみたいですね。

大高: 作品の規模ではなく、作品の内容を見て出演を決めているということですか?

瀬々: そうですね。みなさんメジャーとかマイナーとか関係のない位置で、作品と立ち向かおうとしています。そうして演じている若い俳優さんは素晴らしいと、最近はすごく思います。

司会: 今日いらっしゃっているお客さんの中にも、夢を持った俳優さん、映画監督志望、自主制作をやっている人がいると思います。そういう人たちになにかメッセージをお願いします。

瀬々: あまり偉そうなことは言えないですけど、でも何回も言いますけど、映画の前では全ての映画は平等だと思います。どんな映画も平等です。
そして、最初に表現や、何かをやりたいと思った時は、やっぱり反骨精神から始まったと思います。何かを変えたい、何かを覆したい、自分を変えたいでもいいんです。やっぱりその初期衝動がすごく大事なものだと思います。

本田: 『菊とギロチン』というタイトルを聞くと、どうしてもギロチンという言葉のインパクトが強いんですけど、しかし映画を見るとどんどん女相撲のほうに惹かれていく自分がいました。みんながどんどん輝いていくんですね。だから、ぜひ若い人、特に若い女性に観てほしいと思いました。あの時代の若い女性たちがどのように生きていたのか、もがいていたのかが描かれています。それは今の生きにくい時代を生きている女性にも通じるのもなんじゃないかな。彼女たちのエネルギーを感じてほしいです。

瀬々: 僕は58歳になりましたけど、この『菊とギロチン』を自分で観た時に「ああ、僕はこういう映画を作りたくて映画監督になったんだなぁ」と思いました。今上映しているので、ぜひ見てください。熱い映画になっています。本当にお願いします!よろしくお願いします!

「菊とギロチン」
テアトル新宿他にて全国順次公開中

監督:瀬々敬久
脚本:相澤虎之助・ 瀬々敬久
出演:木竜麻生 東出昌大 寛一郎 韓英恵 渋川清彦 山中崇 井浦新 大西信満 嘉門洋子 大西礼芳 山田真歩 嶋田久作 菅田俊 宇野祥平 嶺豪一 篠原篤 川瀬陽太
ナレーション:永瀬正敏

配給・宣伝:トランスフォーマー
2018年製作 / 189分

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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