コラム:LiLiCoのHappy eiga ダイニング - 第3回
2010年1月25日更新
第3回:中村義洋監督はムチより怖いものを持っている
対談ゲスト:「ゴールデンスランバー」堺雅人、竹内結子
リリコ:走るシーンとかはどうでした? 一番走った日はいつだったのでしょう。
堺:初日が一番きつかったですね。ただ、僕の隣にはカメラを担いで走ってくれる人がいるわけじゃないですか。追いかける警官の人もいるし。だから、みんなで汗かいて作った感じがするんですよ。苦労はもちろんあったけれど、それはあんまり関係ないのかなって気がします。ただ、アクションに慣れていない俳優なので、変な生々しさはあると思うんです。受身を取れていない人のギリギリの受身みたいな(笑)。そういったスリルも味わっていただければ。
リリコ:ピンチのときって、やっぱりお金ではなくて人を信頼するところですよね。伊坂さんのいいところって、いつも作品を見ていると「通じているよー!」って最後に叫びたくなりますよね。
竹内:なります、なります!
■伊東四朗さんのセリフにハッとさせられた(竹内)
リリコ:本当に人を信頼することって大事ですよね。人生でどんなときに感じますか?
竹内:私は、この作品で伊東四朗さん演じる父親が(首相暗殺犯に仕立てられた息子の)堺さんのことを「信じたいんじゃない、(無実だと)知っているんだ」というセリフにハッとさせられました。私自身、誰か好意的に思っている人がいたとして、その人たちに何かあったときに「知っている」と言い切れる人がどれだけいるだろうって。私が人との関わり合いの中で、お互い本当に「知っている」と言える関係の人たちが、自分のピンチをさりげなく手助けしてくれる人になるのかもと思うと、「うわっ、人も出会いも、その瞬間も大事にしなきゃ!」と思いますね。信じることはたやすいかも。だけど、その人が犯人じゃないと知っているって言い切れるのは、肉親か家族か、絶対的な信頼関係を築ける友人か知人でしかないでしょうしね。
堺:信頼ということでいうと、僕はこの仕事じたいが信頼のたまものであると思うんです。基本、圧倒的に受身な仕事なので、人を信じるということからしか話が進まないものだと思うんですよ。そういう意味で、中村組って人の信頼を裏切らないんです。いい組だし、また何か機会があれば一緒に仕事がしたいですね。
■中村義洋は今の時代に責任を持って生きている(堺)
リリコ:中村監督ってほかの監督とどんなところが違うんですか? 一回会ったことがあるんですが、「あなたは天才です!」って言っちゃいました。役者さんから見てどうですか?
堺:僕にとって、中村義洋の一番の魅力とは年が近いということだけです。つまり、同時代人として今の時代をちゃんと責任をもって生きている気がするんですよね。伊坂幸太郎さんもそうですが、ちゃんと時代と切り結んでいる感じが信頼できるんです。もちろん同時代人の監督には、もっと面白い人がいるかもしれないけれど、今のところ僕は中村義洋を越える、業界の同時代人を知らない。
竹内:私は同時代人よりはちょっと年下ですが、中村監督はまず作品のことが大好きで、スタッフ、キャストをすごく信頼して大事にしてくれるから安心できる。ただ、何か起きたときに誰よりも怖いのは監督だと思うんです。ムチより怖いものを持っている。特殊な動物園の園長さんって感じでしょうか。「いいよ、あるがままにいたらいい」って言ってくれて、こちらもきっちりそうさせてもらうのに、ジワリジワリとそれぞれを狙い通りのところへ無意識のまま誘導している気がするんですよね。
堺:確かに、現場の中村義洋のメガネの奥の冷たい目がときどきキラッと光って……恐ろしい!っていう瞬間はありますね。
>>次のページへ続く