コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第96回
2007年12月7日更新
第96回:「バットマン」新作を、IMAXの迫力の映像と音響で体感!
年の瀬が迫ってきたこともあって、取材ラッシュが続いている。ここ1週間も、トム・ハンクス、ジュリア・ロバーツ主演の「Charlie Wilsos's War」と「ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記」と「P.S. I Love You」(ヒラリー・スワンク、ジェラルド・バトラー共演)のジャンケットがあり、いろんな人の話を一気に聞いたせいで頭が混乱気味である。
そんな中、来夏公開映画のフッテージ上映へのお誘いをいただいた。上映時間がわずか6分しかないということで、普通だったら丁重にお断りさせてもらうところだが、いそいそと試写会場へ駆けつけた。「バットマン・ビギンズ」の続編「The Dark Knight」のフッテージであることに加えて、IMAX劇場での上映だったからだ。
最近は、新作映画がIMAXで同時上映されることがずいぶん多くなった。ぼく自身、「バットマン・ビギンズ」や「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」をIMAX版で鑑賞しているのだが、正直、あまり感心しなかった。せっかく8階建てビルの高さに相当する巨大スクリーンを利用しても、35ミリフィルムで撮影された映像では、IMAXの大判フィルムで撮影したドキュメンタリー映画の迫力にはとてもかなわない。せっかくIMAXで上映を行うのならば、専用のカメラで撮影したらどうだろうとつねづね思っていた。
どうやらクリストファー・ノーラン監督も同じことを考えていたらしい。新作「The Dark Knight」では、重要な数シーンをIMAXカメラで撮影したのだ。映画の一部とはいえ、劇映画でこのカメラを使用するのは前代未聞のことだ。
ロサンゼルスの上映会で挨拶を行ったノーラン監督は、その理由をこう説明した。
「過去15年にわたり、IMAXで撮影をやりたいと思っていました。現存するテクノロジーで、スクリーンの大きさや迫力のみならず、表現力と鮮明度でIMAXに勝るフォーマットはありませんからね」
今回、上映される6分間のフッテージは、来年夏に公開される映画のオープニング場面であるのと同時に、ひとつの短編映画としても楽しめるようになっている、とノーラン監督は説明する。「まあ、口で説明するよりも、観てもらったほうが早いと思いますので」と、監督は挨拶をそそくさと切り上げ、上映を開始した。
それは、バットマンの新たな敵となるジョーカーの登場場面だった。ジョーカーの一味が銀行強盗を行うプロセスが、スリリングに描かれている。ヒース・レジャーが演じる今回のジョーカーは、残忍で狡猾だ。
しかし、なによりも圧巻だったのが、IMAXの力だった。IMAXの巨大な映像と迫力のサウンドは、映画を見慣れたシニカルな観客をも引きずり込むパワーを持っている。ぼく自身、映画のなかに入って、銀行強盗現場に居合わせた人質になったような感覚に襲われた。
ほんの6分間の上映が終わったあと、前の座席の記者たちが「わざわざ見に来た甲斐があったよ」と言い合っていた。ぼくも同感である。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi