コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第80回

2006年8月2日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE
ベニスのビーチを走る人々
ベニスのビーチを走る人々
センサーを付けた専用シューズ
センサーを付けた専用シューズ

フォーシーズンズ・ホテルで行われた「マイアミ・バイス」のロサンゼルス・ジャンケットをもって、今年3月から続いた夏の大作映画の取材ラッシュがようやく終了したことをきっかけに、ぼくはランニングを始めた。やらなきゃいけないとは思いながらも、時間がないことや疲れていることを言い訳にして、ずっと先延ばしにしていたことだ。

ご存じの通り、アメリカは肥満大国だ。高カロリーの食品を大量に消費する食生活と、車社会による圧倒的な運動不足のためだ。ぼくは渡米1年目にして6キロほど太り、それからは日本食を主食にしたり、週に一度は運動するようにしたが、アメリカで出される食事の量に合わせて胃袋が大きくなってしまったせいか、体重はじわじわ増えてきた。

センサー部分の拡大図
センサー部分の拡大図

アメリカにいてなによりも危険なのは、自分が太っていることを認識しづらい点だ。なにしろまわりには肥満の人がごろごろといるから、多少腹に肉がついたところで、別に気にならない。「最近、太り気味なんだ」などと友人にランチの席で打ち明けてみたところで、「そんなにガリガリじゃないの!」などと食べ物を勧められるのがオチである。

しかし、この夏、日本に一時帰国したとき、ぼくは現実を受け止めざるを得なくなった。複数の知人から太ったと直接指摘されたばかりか、都内をちょっと歩き回っただけで、ふくらはぎが痛み、太ももが筋肉痛になったのである。外見上の変化よりも、体力の衰えのほうがショックだった。

そんなわけで、ランニングを始めることにした。幸い、ぼくのボロアパートからベニス・ビーチまでは徒歩1分ほどの距離で、ランニングコースには困らない。いきなり走り出したら怪我をするのは目に見えていたので、まずは砂浜を歩くことから始めた。ベニスからサンタモニカまで往復7キロほどの距離を、歩く。そのうち、ランを混ぜるようにして、2週間後にはゆっくりとしたペースながら完走できるようになった。

画像4

個人競技が嫌いで、とくにランニングが大の苦手だったぼくがここまでのめり込めたのは、大いなる危機意識に加えて、iPod+Nikeという強力な秘密兵器があったおかげだ。ナイキの専用靴に空豆ほどの大きさのセンサーを仕込むと、走行データがリアルタイムでiPod nanoに送られてくるという仕組みだ。iPodで好きな音楽を聴きながら、中央のボタンをポチッと押すと、走行距離、タイム、ペースを音声ガイド(男声・女声と選べる)で教えてくれる。まるでパーソナルコーチが一緒に走ってくれているような気分で、耳元で優しく囁かれると、ついがんばってしまう。なによりも素晴らしいのは、自分の走行記録をナイキの専用サイト(nikeplus.com)にアップロードできることだ。これまでのラン(あるいはウォーク)のすべての距離やペース、消費カロリーをカレンダー形式で閲覧できる。モチベーション維持に効果抜群で、このおかげで3日坊主にならずに済んでいると言ってもいい。

おかげで最近は、体調がすこぶるいい。筋肉痛だけは相変わらずだけど。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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