コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第78回
2006年6月13日更新
最近はどっぷりヨガにはまっている。とは言っても、やるほうではない。ヨガDVD作りのほうだ。
ことのきっかけは、昨年の春にさかのぼる。ぼくは知人の紹介で、スーザン・ニコルスさんという女性と出会った。彼女は13年間もの経験を誇るヨガの愛好家で、SKIDLESSという滑り止め機能付きのヨガラグを開発した起業家として知られている。
たちまち、ぼくは彼女に魅了されてしまった。元女優だから美しいのはもちろんなのだが、自分を飾り立てることなど一切なく、いつもおどけている。好奇心が旺盛で、ポジティブなエネルギーで満ちているから、一緒にいるだけでこちらまで元気になるのだ。彼女は自らがCEOを務める会社の運営から商品開発まで多忙な日々を過ごしながら、毎晩、レストランや美術館に繰り出していく。40を超えているのに、どうしてここまで元気でいられるのか不思議なほどだ。
彼女とは別の仕事を一緒にしていたのだが、いつの間に、2人でヨガDVDを作ったらどうだろうと熱く語りあうようになっていた。彼女はインストラクターの資格を持ち、自分なりの哲学を持っていた。ぼくは、ヨガに関してはまったくの初心者だけれど、映像作りに関してはそれなりのこだわりがあった。2人が力を合わせれば、まったく新しいヨガDVDを生み出すことができるかもしれない、と。
「Yoga For Happiness」(邦題「スーザン・ニコルスのしあわせになるONE DAYヨガ」)というタイトルを決めたのは、ぼくのほうだった。「痩せる」とか「ダイエット」といった即物的な目標を掲げたフィットネス関連のDVDはごまんとあるし、そうした目標を掲げること自体がヨガ的ではないとスーザンさんから教わっていた。ヨガを正しくやっていれば、痩せるし、健康にもなる。でも、ヨガのなによりものメリットは、しあわせな生活を送れるようになることだ、と彼女は事あるごとに繰り返していた。ヨガは満ち足りた生活に不可欠な「ツール」であると。そのライフスタイルを実践している彼女を見れば、納得だった。そこで、いっそのこと「しあわせになる」ことをコンセプトにしようと持ちかけたのだった。
それからコンテンツ作りが始まった。Focus(目覚めのヨガ)、Energy(きれいになるヨガ)、Relax(癒しのヨガ)という3つのテーマに分類し、彼女がそれぞれのシークエンス作りを担当した。映画における脚本作りだ。ぼくのほうは、「しあわせになる」というコンセプトをどう表現しようかと考えた。ドラマ形式で始まる構成や、シークエンスの進行に合わせて展開する背景映像、そして、それぞれのテーマに合わせたオリジナルミュージックなど、限られた日程と予算でやるには正直詰め込みすぎだった。おかけで、ぼくは自分の首を思いっきり縛ることになり、自らの健康と映画ライターとしての信頼を損なうことになった。
努力と質とが必ずしも比例しないことはわかっているけれど、ようやく完成したDVDの仕上がりには満足している。ぼくが不健康になったぶんだけ、みなさんにしあわせになってもらえたら嬉しい。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi