コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第73回
2006年1月12日更新
「タイタニック」のアルティメット・エディションDVDの発売タイミングでジェームズ・キャメロン監督に取材したときのこと。「タイタニック」以来、長編映画の世界から姿を消してしまった監督に近況について質問すると、「バトル・エンジェル」(07年公開)と、タイトル未発表のSF映画(08年公開予定)の2本のプリプロダクションを同時に進めているという頼もしい返事が返ってきた。どちらも3Dカメラを使用し、「シン・シティ」同様、すべてのシーンをブルースクリーンのスタジオで撮影するという。長編映画に再び着手するまでにここまで時間がかかった理由のひとつとして、「3D映画を公開できる環境が整うのをずっと待っていたんだ」とキャメロン監督は説明する。
そういえば、プロデューサーのリック・マッカラムも、「スター・ウォーズ」の全6エピソードを3D化するにあたり、設備面での普及を条件に挙げている。
「まだ、世界で3D映画を公開できる劇場が少なすぎる。3Dの映写機を導入すれば、劇場主は毎年減りつつある観客動員を、元に戻すことができるのに、なかなか理解してくれないんだよ」
ぼく自身は、最新の3D映像を観たことがないので、それがどれだけ凄いものなのかはわからない。でも、ルーカスやゼメキス、キャメロンといった、特殊技術に厳しい目を持ったクリエイターがこぞって絶賛していることから、かなりのものだということは想像がつく。
でも、むしろぼくが気になるのは、映画業界の人たちが、ハリウッドの不況が今後も続くと見ているということだ。3D映画への移行も、単なる技術革新ではなく、不景気へのカンフル剤として語られているのだ。実際、05年の全米ボックスオフィス収益は、チケット価格の上昇もあり、04年と比較して5%ダウンで済んだが、動員数に至っては7%以上も下がっているという。05年の公開作品の質が例年以上にひどかったとか、DVDやホームシアターが普及したからだとか、あるいは、ガソリン価格の高騰やチケット価格の上昇が影響したとか、ハリウッドではさまざまな原因分析が行われているが、決定的な改善策は見つかっていないという。さしあたり、大作映画が3Dとして公開されれば、一般家庭ではその迫力映像を体験できないから、動員数が増えるのは間違いない。ただし、シリアスドラマやロマンティック・コメディを3D化したところで、効果はあまり期待できない。映画を映画館で観る、という習慣自体が廃れつつあるのかもしれない。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi