コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第72回
2005年12月1日更新
いまアメリカでは、どういうわけか政治映画が大流行だ。第1次湾岸戦争を描いた「ジャーヘッド」や、ニコラス・ケイジが武器商人に扮する「ロード・オブ・ウォー」、マッカーシズムに立ち向かったジャーナリストを描く「グッドナイト&グッドラック」、石油版「トラフィック」とも言える「シリアナ」、そしてミュンヘン五輪のイスラエル選手団殺害事件を追うスピルバーグ監督の新作「ミュンヘン」などがそうだ。実話をベースにしたこれらのシリアスな映画が、年末のホリデーシーズンに一挙公開されるのはなんとも不思議な気がする。
昨年は「華氏911」を筆頭にドキュメンタリーの世界でさまざまなポリティカル映画がリリースされたが、今年はフィクションの世界で、しかも規模をずっと大きくして、政治主張が行われている。そのテーマは、軍隊派遣から言語統制、石油ビジネスまで多岐にわたるが、いずれもアメリカの現政権を批判しているとみることができる(ただし「ミュンヘン」は未見なので、この映画のスタンスに関しては不明)。
9・11から4年の月日が過ぎ、ブッシュ政権への支持率がようやく落ちてきたことで、リベラル派のフィルムメーカーがようやく自己表現できる土壌が整った、ということのようだ。とくにジョージ・クルーニーの活躍が顕著で、「シリアナ」では製作・出演、「グッドナイト&グッドラック」では監督までこなしている。
現在も、9・11そのものをテーマにした映画が複数進行中なので、この傾向はしばらく続きそうだ。保守派のフィルムメーカーは、きっと「ダイ・ハード」や「ランボー」的なマッチョな映画で対抗することになるのだろう。
映画史上、政治映画には傑作が多いし、クリエイターが自由に自己表現できるようになったのは喜ばしいことだと思う。でも、個人的な好みを言わせてもらえば、主張を大上段に振りかざしたガチガチのタイプよりも、一見なんの変哲もない娯楽映画のなかに、政治主張をそっと忍ばせたような作品のほうが好きだ。たとえば、アルカイダを思わせる自警団を登場させた「バットマン・ビギンズ」のように。
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筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi