コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第7回
2000年6月29日更新
パーティーの招待状に「ブラック・タイ」とあったら、参加するためには正装しなくてはいけないということだ。カジュアルなロサンゼルスではなかなかそんな機会はないのだが、由緒正しいアカデミー賞は例外で、カメラクルーまでもタキシード着用が義務づけられているぐらいだ。そんなフォーマルな場に、今年とんでもない格好をして現れた二人組がいた。グウィネス・パルトロウが着たピンクのドレスと、ジェニファー・ロペスのグリーンのドレスをまとって参上したふざけた2人組こそ、「サウスパーク」のクリエイター、トレイ・パーカーとマット・ストーンなのである。
切り張りでできた稚拙なアニメーション「サウスパーク」の放送が開始したのは、97年のこと。コメディ・セントラルというケーブル局での放送にもかかわらず、たちまち社会現象となった。
人気の秘密は、なんといってもその過激さにある。4人の子供たちがサウスパークというのどかな雪国を舞台に繰り広げる物語だが、そのかわいらしいルックスに騙されてはいけない。彼らは放送禁止用語で罵倒し合い (放送時はピー音だらけになる)、破壊活動を行い、殺人だって犯してしまう「純粋無垢」だなんて言葉からはもっとも遠い存在だ。おまけに、登場人物の一人は毎回必ず惨殺されてしまうのだ。
毎回基本設定以外はまったく違ったストーリーであることが魅力で、たとえば、去年「チ◯ポコモン」というエピソードがあった。ちょうど「ポケモン」がアメリカで大ヒットしていたころで、日本企業が「チ◯ポコモン」なるヒット商品を開発して、アメリカ人の子供を洗脳していくという物語だった。
これを、鋭い風刺と見ることもできるし、たちの悪いジョークともいえるかもしれない。とにかく彼らは、「宗教」や「国家」という巨大権力から、「ムカつく芸能人」というみみっちい相手まで、同等のパワーでもって徹底的にジョークにしてしまう。そんな、無鉄砲でやんちゃな姿勢が、多くの視聴者に支持されているのだろう。
さて、アカデミー賞には「サウスパーク 無修正映画版」の主題歌がノミネートされたのだが、オスカーは「ターザン」のフィル・コリンズに渡った。この事態にトレイとマットが黙っているはずがない。直後のインタビューで2人はこう息巻いていた。「エイミー・マン (『マグノリア』でノミネート) なら我慢できる。彼女はかっこいいし。でも、フィル・コリンズなんかに負けたなんて、ぜったいに許せねえ!」
それから2人の復讐劇がはじまった。さっそく「サウスパーク」のなかにフィル・コリンズを登場させ、ちんけな悪者にしてしまう。さらに、MTVムービーアワードで、「~無修正映画版」が音楽賞を受賞したとき、トロフィーであるポップコーン像を手にして、「フィル・コリンズには、ハゲの銅像がお似合いだぜ!」などと言い放つ始末。
この二人を敵にしたら怖いのである。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi