コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第67回
2005年7月5日更新
先日、「Mr.&Mrs.スミス」のジャンケットに参加した。ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーという話題の2人が参加するとあってか、取材場所のホテルCasa Del Marをパパラッチたちが取り囲んでいた。カメラを持った人たち(野次馬も含めて50~60人くらい)を抜けて、ホテルに到着する。
ホスピタリティ・ルーム(控え室)の部屋番号がわからなかったので、フロントに尋ねるも、「セキュリティ上の理由」により断られる。自分が招待を受けたインタビュアーであると説明しても、ホテルマンは首を縦に振らない。長いこと取材をしているけれど、こんな目に遭ったのははじめてだ。
自力でホスピタリティ・ルームにたどり着くと、スタッフから誓約書なるものに署名を求められる。アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットに「パーソナルな質問を一切しません」と誓う宣誓書で、サインをしないことには取材を受けさせないという。当日になってそんなことを言い出すのはフェアじゃないと思いながらも、もともとセレブの私生活には興味がないので了承する。引き替えに、プレス用パスを受け取る。
その後、タレントのいる階に移動。順番待ちする記者がずらりと並んだ廊下には、ぴりぴりとした空気が漂っていた。複数のガードマンが厳しい目を光らせるなか、タレントの広報が宣伝スタッフに厳しい要求をつきつけている。椅子に座った記者たちは、一様にぐったり。なんでも「セキュリティ上の都合」により、スケジュールが大幅に遅れているという。結局、ぼくのテレビ取材は一時間遅れでスタートすることになった。
テレビ取材そのものは、非常にうまくいった。2人はいつも通り明るく気さくで、ちょうどデザートを食べていたアンジェリーナは、ケーキを勧めてくれたくらいだ(もちろん丁重にお断りした)。取材部屋はリラックスムードたっぷりで、外の喧噪とは無縁だった。
その後、「Mr.&Mrs.スミス」のプリント取材に参加。淡々と進行する記者会見に参加しながら、昔は良かったと思わずにはいられなかった。数年前まではトップスターとロングインタビューをすることも珍しくなかったのに、今ではグループ取材の機会すら減り、監督やプロデューサーを交えた記者会見形式が大半を占めるようになってしまった。直接対話ができるのは、テレビ取材枠の5分間だけになのだ。
その主な理由は、タブロイド報道の過熱である。セレブをパパラッチが追い回し、ゴシップライターが好き勝手書き立てるから、タレント側が対抗手段としてさまざまな策を講じてくる。取材の機会を減らし、誓約書で相手を縛りつけるのだ。
この状況はお互いにとって不幸だ、と思う。まともな取材をしたいと思っている記者にはその機会が与えられないのだから当然だが、タレントたちにしたって、発信したいことを自由にコメントできないストレスがきっとあるはずだ。宣伝する映画の内容やエピソード以外にだって、話したいことが山ほどあるはずなのに(実際、今までの取材で面白い話をいくつも披露してくれた)、今や固く口を閉ざしてしまっている。
もしかすると現状に不満を覚えているのは、自分だけなのかもしれない。記者会見が終了すると同時に、数十人もの記がブラピに殺到。雛鳥が餌を求めるように、サインを懇願していた。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi