コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第48回

2003年12月1日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE
「ビッグ・フィッシュ」 2004年初夏、日比谷スカラ座1ほか東宝系にて公開 (配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
「ビッグ・フィッシュ」 2004年初夏、日比谷スカラ座1ほか東宝系にて公開 (配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
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ジャンケット取材で出演者に取材するとき、俳優は決まってその映画のことを褒めるものだ。宣伝のために取材を受けているわけだから、「本当はがっかり」とか「なんでこんな映画に出ちゃったんだろう」などとこぼす人がいるわけないのだが――あ、でも、「ワイルド・スピードX2」に出演したのは、「契約で縛られていたから」と告白するポール・ウォーカーのような正直者もいるけど――、取材の数をこなしていくと、相手が映画の仕上がりに満足しているかどうか、直感的にわかることが多い。驚くべきは、不満を持っている(と思われる)人が大部分を占めるという点である。お金儲けのために納得のいかない作品に出演してしまったためか、それとも、トラブルや意見の食い違いから想像と違ったものになってしまったということなのだろうが、嘘をついていると知りながらも、彼らのコメントを記事化するのは、非常に虚しい。

いつもがこうだから、本気で出演作を気に入っている人に出会えると、抱きしめたいほど嬉しくなる。たとえば、ティム・バートン監督の最新作「ビッグ・フィッシュ」のジャンケット取材で、ダニー・デビートにインタビューしたときのことだ。

「ティム・バートンはいつだって観客をファンタジーの世界に連れていってくれる。でも今回は、感情的にディープでリアルなところまで連れていってくれる。こんな素晴らしい感動作に出演させてもらえて、本当に誇りに思うよ」

撮影中のティム・バートン監督(右)とユアン・マクレガー
撮影中のティム・バートン監督(右)とユアン・マクレガー

デビートの言葉を疑う気など起きなかった。なぜなら、「ビッグ・フィッシュ」は、バートン監督の最高傑作だからだ。

「ビッグ・フィッシュ」は、ダニエル・ウォレスの原作小説を、「チャーリーズ・エンジェル」のジョン・オーガストが脚色したファンタジックな物語だ。父と息子との和解というテーマから、スピルバーグ監督が触手を伸ばしたこともあったが、結果的にはバートンで正解だったと思う。

物語は、ビリー・クルダップ演じるウィルの視点で描かれる。パリで記者として活躍している彼は、疎遠になっている父親のエドワード・ブルーム(アルバート・フィニー)が危篤状態にあると知り、故郷に戻ることになる。ウィルの目的は、父親から本当の過去を聞き出すことだった。幼いころからさまざまな昔話を聞かされてきたウィルだが、それらはすべて非現実的で、フィクションであることは明らかだった。嘘をつき続ける父親にウィルは傷つき、いつしか距離を置くようになったのだが、手遅れになる前に、真実を聞き出そうと思っていたのである。

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「ビッグ・フィッシュ」は、死の床にある父を描く現在と、ファンタジックな作り話とがパラレルで進行する。作り話の主人公は若き日のエドワード(ユアン・マクレガー)。「フォレスト・ガンプ」のように、次々と奇跡を起こしていく。突飛で幻想的な世界描写は、ティム・バートン監督のもっとも得意とするところだ(ちなみに、デビートはサーカス団の団長として登場する)。

むしろぼくが驚いたのは、現実世界の描写だ。たとえば、エドワードが妻(ジェシカ・ラング)と一緒に水風呂に入るシーンがある。30年連れ添った夫婦の歴史を、ほんの短いシーンで見事に表現してしまったデリケートな演出は、これまでのバートン映画にはなかったものだ。ティム・バートンは、数年前に父親を亡くしたという。結局わかりあえないまま死に別れになってしまった経験があったからこそ、こんなにも優しさに満ちた作品が作れたのかもしれない。

作品としてみれば、過去のファンタジーがやや単調に感じてしまうところもある。でも、ラストシーンの感動が、すべてを吹き飛ばす。これは、バートン流の「フィールド・オブ・ドリームス」なのだ。目を思いっきり腫らしてしまった。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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