コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第43回
2003年7月7日更新
これまでいろんな映画の撮影現場を見学させてもらったことがあるけれど、「パイレーツ・オブ・カリビアン」ほど巨大なものは初体験だった。なにしろ、ハリウッドで最大といわれるディズニー・スタジオのSTAGE2を――このサウンドステージは「アルマゲドン」の隕石のセットが組まれたところとしても知られる――そっくり巨大な洞窟にしてしまったのである。薄暗くて入り組んだ通路を抜けると、巨大な池が姿を見せる。池の真ん中には金銀の財宝でできた山があり、天井から差し込む自然光が、神秘的な雰囲気を醸し出している。
この洞窟のあちこちで、海賊たちがお宝をめぐってチャンバラを繰り広げるのだが、このセットを作るために、100人のクルーと、5カ月の月日を要したという。池を作るために使われた水は、なんと30万ガロン(約113万リットル)。そのため、セットの湿度は高く、じっとしていても汗ばむほどだ。
リアルに作られた洞窟だからこそ、撮影するのもなかなか大変そうだ。照明の位置を変えるにしても、ウェットスーツを着たスタッフが、いちいち池のなかに入らなくてはいけない。「タイタニック」や「ウォーターワールド」のクルーが嘆いていたように、たしかに水が絡んだ撮影は大変そうである。なにをするにしても、通常の数倍の時間がかかってしまうのだ。
セットにいた100人近いクルーは、一様にぐったりとしていた。すでにここでは2週間撮影が行われていて、昨夜の撮影は午前3時まで続いたという。ぼくなんかはほんの30分ぐらいしかいなかったのだけれど、完全に外界から遮断された暗がりのなかで、むせるような湿気を浴びていると、あっというまに気が滅入ってしまった。
セットを見学したあと、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーのトレーラーのなかで、取材をさせてもらうことになった。ゴア・ヴァービンスキー監督は多忙のため無理だったけれど、主役のオーランド・ブルームやヒロイン役のキーラ・ナイトレイ、そして、当初は取材を受けないといっていたジョニー・デップも、短いながらコメントを取らせてくれた。みんな海賊映画というジャンルに挑戦できて、楽しそうだった。
「海賊映画に期待する要素は、すべて盛り込んであるよ。チャンバラから、船同士の戦い、義眼の海賊、肩に乗る猿まで。笑いとアクションとサスペンス。まさに、完璧な海賊映画なんだ」
ヒットメーカーのブラッカイマー氏は胸を張る。彼は、「パイレーツ・オブ・カリビアン」以外にも、「バッド・ボーイズ2バッド」や、これから撮影に入る「アーサー王」など、大作をいくつも抱えている。さらに、現在放送中のテレビ番組が5本、さらにあらたに5本の番組を企画しているとか。寝る間もないほどの忙しさだという。
それにしても不思議な人である。多忙であるはずなのに、自身のプロデュース作の取材は絶対に欠席しないのだ。今回のセットビジットでも、一番多く時間を貰えたのがブラッカイマー氏だった。ジョニデが8分だったのに、ブラッカイマーは30分。できれば、逆のほうがありがたいんですけどね。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi