コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第42回
2003年6月9日更新
「ファインディング・ニモ」のジャンケットで、ピクサーのスタッフにインタビューできることになった。以前、ピクサー本社で取材したのは、「モンスターズ・インク」のときだったから、約1年半ぶりの再会ということになる。こんな仕事に就きながら、お気に入りの俳優がとくにいない、という不幸な(というか、バチ当たりな)ぼくだけれど、ピクサーのスタッフに話を聞けるというだけで、胸が高鳴るのだから不思議である。そう、彼らには揺るぎない尊敬の念を抱いているのだ。
以前はCG映画に限らず、アニメーション映画に偏見を持っていた。たまたま下手なディズニー映画に当たってしまったせいかもしれないけど、その手の映画は大人の鑑賞に耐えられるものではないと決めつけていた。が、それも、仕事で「モンスターズ・インク」を観ることになるまでの話である。
「モンスターズ・インク」の素晴らしさをあえていまさら説明する必要はないだろうけど、ぼくがもっとも感心したのは、手抜きが一切なかったことだ。アートディレクションからアニメーションまで、その映画に関わった職人すべてが最高の仕事をしている。そこには、子供映画だからという甘えがないのだ。さらに、ピクサーが恵まれているのは、ストーリーテラーの天才が4人もいることだ。「トイ・ストーリー」のジョン・ラセター、「モンスターズ・インク」を監督したピート・ドクター、「ファインディング・ニモ」で監督デビューを果たしたアンドリュー・スタントン、そして、「モンスター~」と「~ニモ」で共同監督を務めているリー・アンクリッチである。この4人がいわゆるピクサーのブレーンで、同社の手がける作品すべてに関わっている。
彼らは作品製作のプロセスをバンドのレコーディングに例える。一人がドラムでリズムを刻むと、そこにベースやギターが加わっていく。そうして、一つの形が出来上がっても、よりいいアイデアが浮かべば、すべてを壊し、最初からやり直す。こうして、最高の形を求めて何年間も知恵を絞るのである。そのチームワークは見事としか言いようがないが、そんな彼らを自由にやらせておく経営陣もたいしたものだと思う。
最新作「ファインディング・ニモ」は、ピクサー映画の頂点ともいうべき作品だ。監督は、ピクサー作品すべての脚本を執筆しているアンドリュー・スタントン。自らの父親としての失敗談をベースにして執筆したパーソナルな物語だけに、これまででもっともエモーショナルな作品になっている。
取材に現れたピクサーのスタッフは、それぞれ充実感に満ちた顔をしていた。そのインタビュー内容は、いずれどこかで紹介したいと思うけれど、彼らのコメントは、パートナーに対する賞賛の言葉で満ちていた。
「ぼくらはビートルズのようなものなんだ」とジョン・ラセターは言う。「それぞれソロ活動もできる。でも、バントとしてやったとき、はじめてマジックが起きるんだ」
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi