コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第41回
2003年5月1日更新
「今日の午後、時間ある? もしかしたら、フッテージを見せてあげられるかもしれないの」
パブリシストからの電話で叩き起こされた。その日の夜は、「チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル」の主演3人娘にインタビューすることになっていた。超先行取材のため、作品を観られないままインタビューに突入することになっていたのだが(「ワイルドスピードX2」といい、「マトリックス・リローデッド」といい、最近このパターンが結構多い)、当日になってなんらかのフッテージを見せてくれることになったのだ。
しかし、約束の時間になっても、なかなか上映は始まらない。季節はずれの大雨で、洪水状態になった道路をかいくぐってスタジオ入りしたのに、である。ジミー・スチュアート・ビルのロビーから、外の景色を見ていたら、気持ちまでどんよりとしてきた。だいたい、この仕事は予定変更が多すぎるのだ。急かされては待たされて、あげくの果てにはキャンセルされる(ことが多々ある)。3人娘の取材だって、今日と決まるまで、何度となくスケジュール変更していた。取材のスタート時間も、いまをもって出ていない。中止になることだって、経験上十分あり得る。いくら世界が不確定要素に満ちているとはいえ、ロサンゼルス在住ライターを取り巻く環境は、不器用なぼくには流動的すぎるのだ。
だから、結局1時間待たされることになっても、驚かなかった。むしろ驚いたのは、観せてもらえた映像が、編集中の生映像だったということだ。ぼくは長めの予告編程度のものを予想していたのだが、ソニースタジオ内にある「チャーリーズ・エンジェル」の編集室で、監督の解説のもと、映画を観せてもらうことができたのだ。
オープニングはモンゴルの酒場のシーンだ。捕虜奪還のため、それぞれの役割をこなすエンジェルたち。まだ、エフェクトが加わっていないから、ジャンプするシーンではワイヤーが丸見え。CG合成のところは、稚拙なアニメーション映像に差し替えられている。「ここはまだエフェクトが出来ていないから」とMcG監督は謝ってばかりだったけど、ぼくは感激していた。音響も特殊効果も加わっていないからこそ、監督の演出意図がよく見えるのだ。ハイパーでおバカなスタイルは今作でさらにパワーアップしていて、それは必ずしもぼく好みとは言えないんだけれど、その過剰なサービス精神には頭が下がった。何十回もの衣装替えと、手の込んだアクションと、ダンスシーン……。観客を一瞬でも退屈させまいと、ありとあらゆるところに仕掛けが用意されている。そのための苦労を想像しただけで(たとえば、メイクの待ち時間だけでも相当だったに違いない)、ぼくは目眩がした。「1」より面白い、と素直に感想を言うと、監督は頼みもしないのに、駆け足でエンディングまで紹介してくれた。映画以上に、監督の熱弁ぶりがおかしかった。
あとでわかったことだけど、部外者でフッテージを観たのはぼくらが初めてだという。ロサンゼルスでライターをしていると振り回されることが多いけど、たまにはこうした収穫がある。不満ばかり言ってちゃだめだよな、と反省。
その夜のキャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リューとのインタビューは、フォーシーズンズ・ホテルで午後7時50分から開始と知らされた。20分前からホテルのホスピタリティルームで待機するも、いっこうに呼ばれる気配がない。聞けば、3人のうちのだれかが遅刻して、45分遅れで進行しているとのこと。あーあ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi